第10章 終局
「………紬。怒ってたでしょ」
「!……ああ、その事か」
広津はふぅ、と息を着いた。
「何だかんだで紬君もある程度はお見通しだったようだよ」
お陰で然程、怒られてはいないさ。
広津は苦笑しながら答える。
「まあ、欺けるとは思っていなかったけど………真逆、あの場に出向いてくるなんて……」
「……。」
「『あの日』以来、紬の考えが全く読めない」
太宰は何処か苦し気に言葉を吐き出す。
紬と離れ離れになってから早4年。
接触しようと思えば出来た筈なのに、何故かずっと叶わなかった。
4年目にして漸く会えたというのに。
――――待っていたのは『拒絶』だった。
「紬……」
太宰がポツリと呟いた時、広津が外套のポケットから何かのメモを取り出した。
間には何か挟まっている。
「……?これは?」
「紅葉君から君にだ」
「!」
虚ろだった眼がカッと開かれる。
慌てて中を確認する太宰。
「『好機はこの一回だけ』だそうだ」
「!」
太宰はその『何か』を確りと握り締める。
そして、立ち上がった。
「有難う広津さん」
「なに。君達は、矢張り双り揃ってないとお互い調子が悪いようだからな」
「出来ればそうしたいけれど……私は紬に完全に拒絶されてしまったからね……」
「?」
広津は太宰の言葉の意味を理解できないと云わんばかりに首を傾げた。
「私達双子に兄だとか妹だとか、そういう類いの括りなんか存在しなかった。なのに紬はもう私の事を『兄さん』って呼ぶのだよ」
太宰が苦笑しながら云った。
「そうか。では私の聞き間違いかね?」
「え?」
広津も帰る心算なのか、話しながら腰を上げる。
「先刻、紬君は今まで通り君の事を『治』と呼んでいたけど」
「!?」
広津に指摘されて太宰は先程のやり取りを回想しはじめた。
「――――っ!」
そして、挨拶もそこそこに何かに取り付かれたが如く走り去っていってしまった。
その方向を見ながらフッと笑うと
広津もその場を後にした。