第10章 終局
『―――早く戻ってこい』
「了解」
丁度、広津の元へ辿り着いたタイミングで電話を切る。
広津は冷や汗を額に浮かべながら紬を見ていた。
「云い訳は報告書と共に聞こう。芥川君にも伝えておいて」
「はい」
帰るよ。
紬がそう短く云うと、広津は探偵社に背を向けて歩き始めた。
「待て!貴君は一体何者だ?」
福沢の言葉に紬がピタリと歩みを止めた。
そして、ゆっくりと振り返る。
浮かべているのは真っ黒な笑みだ。
「先刻申し上げた通りですよ。私は太宰紬。貴社でお世話になっている太宰治の妹でポートマフィアの者です」
「「「「「!?」」」」」
「…………。」
ハッキリと告げられて一同が警戒レベルを上げた。
その警戒に気付いたのか。
物陰で待機していた黒尽く目の男達が数人現れて武器を構える。
「部下が迷惑を掛けたようですから謝罪と挨拶がてら参上した次第です。ので、本日は此れにて失礼させて頂きます」
紬はニコニコ笑って会釈すると男たちに一言。
先刻と同じ様に「帰るよ」とだけ告げた。
一斉に武器を仕舞い、紬の乗る車まで整列して帰る支度を進める。
探偵社の誰もが、その光景を車が見えなくなるまで唖然とした様子で見送ったのだった。
「太宰。今の話は本当か?」
社長に問われて太宰は息を吐いた。
「ええ。彼女―――紬は私の双子の妹でポートマフィアの幹部の一人」
「「「双子!?」」」
「え。驚くの其方?」
全員の反応に呆れる太宰。
「いや、だって太宰さんだって元マフィアだし」
「そんなことよりもそッくりの方が気になッて仕様が無かッたよ」
「流石に僕も双子だとは思わなかったよ」
何故、太宰があれ程に警戒したのかなど其方退けで。
取り敢えず事態が終息したことに安堵の息を吐く探偵社の面々であった。