第10章 終局
ガッ!
間一髪だった。
触れる寸前のところで太宰は社長の前に割って入り、妹と名乗った女の手を掴んだ。
「……太宰?」
慌てた様子の太宰に福沢が思わず声を掛ける。
が、太宰にソレに応じる余裕は無かった。
「痛たた。乱暴だねえ」
「何で……如何して此処に!?だって紬はっ……」
「何で?可笑しな事を訊くね、治。人の駒を無許可で使用しておいて私が気付かないとでも思ったのかい?」
「!」
バッと手を払い除けてトン、と地面を蹴って太宰との間合いを取る紬。
何が起こっているのか。
抑も何故、太宰はそんなに慌てているのだろうか。
探偵社の人間が。
既に真相に行き着いたらしい乱歩以外はポカンとした様子でそのやり取りを観ていた。
そんな時だった。
ピリリリリ………
「おっと。電話だ」
紬が懐から音を発している機械を取り出し、対応を始める。
ピッ
ボタンを押して、直ぐに電話を自分から遠ざける。
『手ッ前ェ!!人に仕事押し付けて何処ほっつき歩いてやがる!?』
「!?」
数秒おいて耳元にその機械を持ってきて、会話を始める紬。
その電話口から聴こえた怒鳴り声に、福沢は心当たりがあった。
漸く、太宰が慌てた理由に気付き、身構えた。
「あはは。私に会えなくてそんなに寂しいのかい?困った相棒だねえ『中也』は」
「「「「!?」」」」
紬の言葉を聴いて。
この戦争時に太宰が警告していた人物の名前が出てきたことで他の探偵社員も一斉に警戒を始めた。
「もう帰るよ。手土産に探偵社の社長の首を持って帰ろうとしたけど丁度、今。失敗してしまったし」
『……。』
一気に張り詰めた空気がこの場を支配し始めた。
と、云うのに。
元凶である紬ははヘラヘラ笑いながら電話をしながらスタスタと広津達の元へ歩み寄っていった。