第10章 終局
紬は建物を出る。
「紬」
今得た情報の元へ如何にして向かうか考えていたところに、突然声を掛けられて振り返った。
「姐さん」
現れたのは同じ幹部職の尾崎紅葉―――。
「出掛けるのかえ?」
「ええ。飼い狗が目を離した隙に首輪を外して暴れまわっているようなので」
「そうか」
フッと笑う紅葉。
「丁度、私が今まで乗っていた車があるから使わぬか?」
「……。」
紅葉の後ろに一台の車が停車していた。
運転手と思われる下級構成員が紅葉を降ろしたばかりと云わんばかりに上座の扉の位置に立っている。
「……姐さん」
「何じゃ?」
「一体、治と何の取引をしたんです?」
「!」
紬の眼が鋭く光った。
しかし、そんな紬に紅葉が怯むわけが無い。
「この世界の規則を忘れたかえ紬?私は喋らん。知りたきゃ向こうに訊くことじゃ」
「……。」
紬は口を接ぐんだ。
そして、小さく息を吐くと車の方へ歩き出す。
「車、お借りします」
「主に掛ける言葉じゃ無かろうが、気を付けてのう」
ニッコリ笑って見送る紅葉に苦笑しながら会釈して
紬は車に乗り込んだのだった。
「全く。いい加減、兄妹喧嘩が終わると善いが……のう?お主もそう思うじゃろ?」
「……まあ、そうですね」
何時の間にか紅葉の後方に立っていた中原中也は帽子を正しながら返事をする。
「ところで、姐さん。マジで太宰の糞野郎と何の取引を?」
「そうじゃった。中也や。一寸と私に協力してくれぬかのう?」
「は?」
突然の申し出にポカンとする中也。
「主が一番知っておるじゃろうが、紬は簡単に欺けん」
「そうですね」
「一回じゃ。一回しか好機は無い。勿論、可愛い中也は私に協力してくれるじゃろ?」
「……………………………………はい。」
中也はこの一瞬で色々と考えた。
紬を謀った事がバレれば、仕返しは確実に自分に返ってくる事を。
紅葉のぶんまでキッチリと。
しかし、紅葉の頼みは絶対に断れない。
中也は未だ来ぬ未来を想像して遣って来た頭痛に
頭を押さえながら話の続きをするべく紅葉に付いていくのだった。