第10章 終局
紬が本部のロビーに着いた頃、視界に見知った人間が目に入り、声を掛けた。
「やァ、樋口君」
「!?」
声を掛けられた人物がバッと紬の方を向いた。
その顔も先刻の男と同じで険しい。
恰も―――
「今、一番会いたくなかった人間に遭ってしまった、そんな顔をしてるけど大丈夫かい?」
「――っ!」
樋口は反論出来なかった。
正に、その通りだ。
「私はね、樋口君。決して君を咎めたりはしないよ」
「え?」
穏やかな口調で云われて樋口は呆気に取られる。
「彼の独走癖は今に始まったことではないからねぇ」
「……。」
芥川が今、何故不在なのか。
如何してその経緯に至ったのか。
―――この人には凡て見えている……。
樋口は紬の恐ろしさを改めて痛感させられる。
「却説、物分かりの善い樋口君に問おう」
「……。」
紬は笑顔を崩さない。
「芥川君は何処かな?」
しかし、
嘘を付くことも、誤魔化すことも、黙秘することも。質問に対する正しい答え以外、一切許さないという意を込められたソレを直視することすら出来ずに…。
樋口は目を反らした状態で、紬の求める答えを述べたのだった。