第10章 終局
ポートマフィア本部、幹部執務室―――
「……。」
パラッ………パラッ………
紙の捲れる音だけが部屋に響いていた。
机で書類の束を黙って確認している女と、机を挟んで立っている黒尽く目の男。
女は何の感情も表に出すことなく紙だけに意識を向けているが、男は呼吸すら真面に出来ない程に緊張していた。
よく見れば僅かに震えている。
そんな緊張が漸く解ける瞬間がやって来た。
女が手に持っていた書類を凡て机の上に置いたのだ。
「ご苦労様。下がって善いよ」
「はっ!」
男は一礼すると機敏な動きで扉まで向かった。
「あ― 矢っ張り一寸待って」
「!?」
呼び止められて思わずビクッと肩を上げる男。
「戻ったらさ、悪いけど芥川君を私のところまで呼んできて呉れない?」
「……っ!」
男は思わず息を飲んだ。
その仕草に、話し掛けた女こと太宰紬は僅かに目を細める。
「君さぁ。先刻から怯え過ぎじゃないかい?怖いの?私が」
「そっ!そんな積もりではっ!申し訳ありません!」
「そう」
男の返答に紬はニコッと笑ってみせる。
そして、続けた。
「じゃあ――……」
男が固まる。
紬の態度も、声音も、表情も。
何一つ変わらないのに男は真っ青な顔をして動けない。
彼女が纏っている空気だけが
禍々しいものに変わった気がしたのだ。
そして、男は正しかった。
「本来、芥川君が報告するべき内容を第三者が持ってきたことに私が何の疑問も抱かずに。ひいては何も問われずに帰ることなど出来ないって想像していたから、かな?」
図星だった。
男の震えが目に見えるほどのものに成る。
「芥川君は何処へ?」
「がっ…外出とだけ…伺っております」
「ふーん。じゃあ広津さんで良いや。呼んできて」
「っ!?」
男がビクッとする。
「……。」
その様子を見て紬はゆっくりと立ち上がった。
「広津さんも居ないのか」
「申し訳っ…!」
男は真面に立っていることがやっとだった。
「…の思…通…か……」
「え…?」
紬の言葉を聞き逃し、男が更に慌てる。
が、そんな男のことなど気にもせずに紬はその横をするりと通り過ぎて執務室をでていってしまったのだった。