第2章 双黒
「で?何が云いたい」
「気付かないかい?此処に立っているのに一切の動きが無いのだよ」
「!」
紬に云われて中也はハッとした。
入り口に設置してある監視カメラが起動していないのだ。
「逃げたか?」
「………。」
襲われることは分かっている筈の連中だが、命が大事とは云え、此処を手離すわけにはいかないだろう。
其れほどに大きな会社になった此処の企業は『裏』社会にまで進出してきていた。
それだけなら良かった。
しかし、『異能力』を持つものがこの企業に数人いることに妙な自信が付いたのか。
ポートマフィアにちょっかいを掛けてきたのだ。
その報復―――会社を倒産させるための情報入手と直接関係者の始末をしに、紬と中也が出向いた……と云うわけなのだが。
「侵入しても建物ごと破壊しても『近隣の通報』で警察やら何やらが駆けつける仕組みのようだね。目的の人間たちも避難してるようだし……今、侵入したところで此方の損害が大きい」
「って見せ掛けておいて中に標的がいるかも知れねぇだろうが」
「中に人は居るよ、間違いなくね。でも標的ではない」
「……。」
そこまで云って、紬はその場を去っていく。
続くようにして中也も歩き去る。
「退却の理由は」
「勘」
「は?」
「治の気配がする。作戦を立て直さなきゃ目的を達成できない」
「!?」
紬の言葉に中也が反応する。
「まあ、あくまで勘だから中也がやりたいって云うなら止めないよ」
「………手前がそういう時は大抵選択肢が無ェんだよ」
「うふふ」
「……。」
止めておいた車に乗り込む。
「久しく中也の車に乗ってなかったから気付かなかったけど。車、買い換えたのかい?」
「ああ?もう2年くらい前の話だぜ。爆発したからな。報復か何かだろ」
「……ふーん」
窓の外を眺めながら紬は相槌を打つ。
「中也、飲みに行こう」
「仕事してねェのにかよ」
「飲まないと遣る気でないなぁーもう寝ようかなー」
「あーっ!分かったから!だらけんじゃねぇよ!」
「ふふっ。中也の奢りね」
「……どーせ財布なんざ最初から持ってねぇんだろうが」
「中りー」
こうして2人は夜の街へと消えていった。