第8章 因果
「私がもう少し早く動いていたらきっと事務員は―――…………」
遠くを見つめながらボソッと呟く太宰。
「? 今、何か云いました?」
「否……」
太宰はフルッと首を振った。
「そんなマフィア達が相手だ。刺客から逃れて気が緩む今を狙って必ず何かを仕掛けてくるよ」
「……。」
敦に緊張が走る。
「……む」
ガタッ!
急に太宰が立ち上がった。
「どうしました太宰さん?」
「これ……食べ過ぎた所為か急に差し込みが……」
「え?」
からっぽになったドッグフードの袋を敦に押し付けてカタカタ震えながら説明する。
「敦君。私と私の胃腸はここが限界だ。探偵社を頼んだよ」
「……。」
そう云って太宰は、腹を抱えたまま走り去っていったのだった。
タッタッタッ……
駅から離れて小道に入り、開けた場所へと走っていく太宰。
そして、
「此処なら人目も無い。出てきたら?」
「!」
気配だけする人間に向かって、云い放った。
「やあ銀ちゃんか。背伸びたね」
ざっ!と素早い動きで距離を詰め、太宰の首に刃物を突き付けたのはポートマフィアの「黒蜥蜴」の一人―――銀。
そして、もう一人。
「監視はお見通しという訳ですか」
樋口だった。
銃口を向けながら太宰に近寄ってくる。
「生憎マフィアの監視術を創始したのは私『達』だからね。で 用件は?」
「この銃が用件とは思いませんか?」
ジャキッと構える樋口。
だが、太宰の顔には笑みが浮かんでいた。
「思わないね。暗殺部隊にしては人選が半端だ。第一……私の暗殺なら希望者殺到で軍隊が出来るよ」
「!」
「ってことで銀ちゃんも危ないからこれ下げてくれる?」
「………」
銀は云われた通りに…素直に刃物を仕舞った。
「……確かに用件は別です。首領より伝言を言付かっています」
樋口はハァ、と息を付きながら銃の構えを解いた。
「へぇ。森さんから?何かな。脅迫か恨み言か殺人予告か……心当たりが多すぎて困るね」
「伝言はこうです」
へらっとした様子の太宰に反応すること無く樋口は続けた。
「太宰君。マフィアの幹部に戻る気はないかね?」
真剣な顔をして云う樋口。
「ぷっ」
「なっ……!」
その言葉に、太宰は吹き出して笑った。