第8章 因果
「いや 実に目出度いお誘いだ。嬉しくて仕様が無いよ」
盛大に笑って云う太宰だが、樋口は淡々としている。
「貴方の記録を見ました」
「!」
「その手腕。敵の心臓を刳り貫くような暴虐……貴方の血はマフィアの黒です。この国の誰よりも」
そう告げられて太宰はフッと笑う。
「暴虐なんて只の手続きだよ。退屈なものさ。それに人は変わるものだ。現に其処の銀ちゃんだって昔はこんな小さくて可憐な少女だったのだよ?」
太宰の言葉にピクッと動く樋口。
「話を……掏り替えないで下さい」
先程、太宰に刃物を向けていたとは思えない程、可憐な声で銀が答えた。
「しかし腑に落ちないね。合理と論理の権化たる森さんがこんな茶番に人員を割くとはねぇ」
「茶番ではありません。貴方を守る為です」
「守る為?」
欠伸をしながら聞き返す太宰に、
「首領は"Q"を座敷牢から解き放ちました」
「!」
樋口は静かに告げた。
「莫迦な。Qに敵味方の区別などない。命あるものを等しく破壊する狂逸の異能者だよ」
「闘争を征する為ならばマフィアは手段を選びません」
この言葉に漸く太宰が怪訝な顔付きにる。
「何を解き放ったか判っているのか。あれは呼吸する厄災。何故Qが座敷牢に封印されたと思う?異能の中でも最も忌み嫌われる"精神操作"の異能者だからだよ」
太宰の言葉にマフィア2人は反応を示さない。
「但し、人形が破壊された時詛いを受けるのは『受信者』のみ。『受信者』になる条件は『Qを傷つけること』。『受信者』の躰には誰かに掴まれたような痣が浮き上がるから判別は容易だ。全員に警戒を徹底させれば今なら未だ間に合……」
此処まで話して、太宰は何かに気付いた。
「此処に来た時……『私を守る為』と云ったね?」
マフィアは答えない。
太宰は『何か』を確信した。
「……しまった………!」
太宰は慌ててその場を去ろうとした。
その時だ。
「太宰『幹部』です」
「!?」
黙っていた樋口が再び口を開いた。
思わぬ言葉に太宰が立ち止まり、樋口達の方を振り返る。
「Qを解放したことも含めて、この計画の立案者は太宰幹部です」
「っ…!」
太宰は聞き終えると何も云わずに、直ぐに敦の元へと走っていったのだった。