第8章 因果
『貴兄らの提案は了知した。確かに探偵社が組合の精鋭を挫けば貴兄らは労せずして敵の力を殺げる。三社鼎立の現場なれば、あわよくば探偵社と組合の共倒れを狙う策も筋が通る』
「だがお宅にも損はない、だろ?」
ニッコリ笑って告げた。
『この話が本当にそれだけならばな』
「……」
『探偵社が目先の獲物に喜んで噛み付く野良犬だと思うのか?敵に情報を与え操るは高等戦術だ。この様な本理の粗い策で我等を操れると考えるならマフィアなど戦争する価値も無い』
「……敵の頭目から直々に挑発を賜るとは光栄だな」
『何を隠している?』
「何も」
『この件の裏でマフィアはどう動く?』
福沢の質問に
「動くまでもねえよ」
中也は怪しく笑いながら答えた。
『やあ素敵帽子君。組合の御機嫌二人組に情報を渡したのは君かい?』
「あ?……そうだが」
急に声が代わった事と、『素敵帽子』と褒められて一瞬怯む中也。
『組合は僕達と同じように罠を疑った筈だ。しかし彼等は食いついた。余りに『餌』が魅力的だったからだ――――何で組合を釣った?』
乱歩の言葉にニヤッと笑った。
「非戦闘員――――お宅等んとこの事務員だ」
『事務員を『餌』にしただと!?』
音声が乱歩から福沢に戻る。
「直ぐ避難すりゃ間に合う。その上組合はお宅等が動く事を知らねえ 楽勝だ」
バキッ
その音で社長の音声は途切れた。