第6章 開戦
紬は昼間から酒が飲める小さなバーに来ていた。
「あ~~~~~~~~~~~遣る気出ない」
カウンターに突っ伏しながらぼやく。
「何か厭なことでも?」
この店のマスターだろうか。
カウンターから酒を渡しながら若い男の店員が紬に話し掛ける。
それを飲みながら紬は溜め息を着いた。
「判るかい?」
「はは…それだけ嘆いていれば」
一気に飲み干して追加を頼む。
「はぁ……何処かに首を吊るのに丁度良い梁ないかな」
「えぇ!?お姉さん、それはダメだよ!!」
追加の酒をトン、と置いて自殺を仄めかした紬を慌てた様子で止める。
よく見ると美人だな、この人
平日の昼間から酒を何杯も飲んでいるなんて変な人だとは思うものの、容姿は整っている。
これは、恋愛関係の縺れによるやけ酒じゃないだろうか。
勝手に推測した店員は一瞬だけニヤリと笑って紬に話し掛けた。
「お姉さん、もしかして失恋?それなら―――」
「こんなところに居たか、この馬鹿女」
話し掛けようとした相手が、突然現れた声の方をゆっくりと向く。
小洒落た格好をした男だ。
「もうお迎え?態々、ご苦労様」
「解ってんならとっとと行くぞ……って。テメッ…!未だ仕事中だろうが!なに酒なんか飲んでんだよ!?」
知り合いらしい男と、その男に怒鳴られて耳を塞ぐ紬をポカンとした様子で見ている店員。
「いいじゃん一寸くらい」
「はぁ……。」
盛大に溜め息を着いて、その知り合いの男が懐から財布を出し、支払いをする。
「………え。」
「んだよ。足りねぇのか?」
「あっ……いえ………」
突然現れて、何も云わずに支払いをする男に驚く店員。
その間に紬はグラスの酒を飲み干して、漸くカウンターから離れた。
「御馳走様」
ニッコリ笑ってその場を去ろうとする紬を店員が慌てて呼び止める。
「あっ……お釣り!」
「いいよ。取って置き給え」
そういうと紬は男の。
迎えに来た中也の隣に並び、去っていったのだった。
「………なんだよ。リア充じゃん」
酒代を上回るお釣りを手に握り締めながら店員は
未だ僅かに揺れている入り口扉に向かって呟いたのだった。