第6章 開戦
暫くしてポートマフィアの首領、森鷗外が登場した。
その場にいる人間が一斉に膝を折る。
「これが組合の刺客かね?」
「はい」
脱帽した中也が肯定する。
「探偵社に組合。我々も又、困難な戦局と云う訳だ。最適解が必要だね」
死体など只の塵。
その屍を気にすることなく踏みつけて、全員の中心に移動する。
「組合も探偵社も敵対者は徹底的に潰して――殺す」
その言葉を全員が噛み締めるように受け止めた。
「ところで中也君」
「はい」
森に名指しされ、中也が顔を上げる。
「………紬君は?」
「……。」
中也は微動だせずに考える。
正直に云うか、誤魔化すか。
そして蘇る、先刻のやり取り………。
「疲れたと云い捨てて帰宅しました」
「「「………。」」」
森はやれやれ……と溜め息を1つ着く。
「仕方無いねぇ紬君は」
「連れ戻しますか?」
「いいよ。今は彼女の好きに」
「……。」
中也は一礼する。
思い出していた先刻のやり取り……
『組合も《探偵社》も敵対者は徹底的に潰して――殺す』
チッ……読んでたな、あの馬鹿女
探偵社と衝突する未来を。
唯一無二の。
この世で一番大切な存在である『筈』の兄と正面衝突する未来を。
首領の発言を聞いて勝手に居なくなった理由を瞬時に理解した中也は
「却説、帰るよ」
森の一言で全員が一斉に動く。
「広津、首領の護衛は任せる」
「承知した」
広津にそれだけ云い残して一人だけ違う方向へと消えていった。
「兄貴、如何したんすかね?」
立原が広津に話し掛ける。
「さあ?用事でも出来たんだろう」
広津は口元に笑みを浮かべながらスタスタと首領に向かって歩いていった。