第6章 開戦
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訊きたいことを問い質した後なのか。
血溜まりを作り、唯の肉塊と化したものにさして興味が無いのか。
紬は欠伸して歩いていた。
「矢張り、中原君が捕らえたか」
「黒蜥蜴か」
2人しか居ない空間に次々とヒトが集まる。
「流石、双黒ですね」
「紬は何もしてねぇっつーの」
立原の言葉に中也が舌打ちする。
そして、何かに気付いたのだ。
「……おい」
「そういえば」
中也とタイミングを同じくして広津も口を開いた。
「紬の奴、何処行きやがった!?」
「紬君は如何したのかね?」
「「「「「え」」」」」
広津の質問がかき消される程、中也の怒声が狭い空間に反響する。
一瞬だけ。
シン、と静まる。
「あの女ァ~……また逃げやがったな!」
中也は懐から携帯電話を取り出して操作し始めた。
「兄貴、矢っ張り紬姐さんに遊ばれてますね」
そんな中也の様子を見ながら立原がボソッと云った言葉に一同が首肯く。
「然し、中原君じゃないと手に負えないからね紬君は」
「「「「「……。」」」」」
電話に向かって全力で怒鳴り散らかす中也を観ながら広津はフッと笑う。
この一言に、誰も何も云うことは出来なかった。
此処に居る人間は知っているのだ。
淡々としているくせに眈々と部下を任務を敵を見抜く。
やることは凡て残忍残虐。
おまけに、彼女の異能力について実を識っているのはごく僅かな者だけで、身内にすら曖昧な解釈をされている。
故に、同じ幹部である中也なんかより畏れられているのだ。
「太宰君と同じ様に中原君まで傍に居なくなったら彼女は一体――……」
紬は『片割れ』が傍に居なくなってからというもの、殊更に物事に関心を示さなくなった。
その事を知る人間も最早、ごく僅か。
広津のぼやきを拾ったものは誰も居なかった。
「『疲れたから一服してくる』だァ!?手前ェはホント何もして無ェだろうが!!」
電話に出たらしい相手に盛大に怒りをぶつける。
しかし、皆気付いていた。
ツー…ツー…
既に通話を切られてるんだろうな、と。
「コロス…あの女、絶対に殺してやる」
中也は懐に電話を仕舞って呪いの言葉のようにぼやいた。