第22章 想歌
「濡れた枕なんてヤダ」
「へいへい。着替えてくっからちゃんと拭いてろ」
「ん。」
紬を起こしてタオル越しに撫でると中也は執務室の奥にある、仮眠用のベッドと簡単な着替えが置いてある部屋へと消えていった。
「「……。」」
それを見送ってから紬に視線を戻す部下達。
その見つめる先にあるものは………指輪だ。
「なぁに?」
「「っ!」」
見つめすぎたのか。紬が部下達の方を振り返った。
少し考えてから部下その1は恐る恐る口を開いた。
「太宰さん……それ」
「それ?ーーーああ、コレ」
左指に嵌まっている指輪だと気付いて紬もそれを注目した。
「ふふっ。中也の指に嵌まってたのと同じって云いたいんでしょ?」
「はい……」
今まで気付かなかった。
先程、手袋を外した際に見えた左手の薬指には紬が嵌めている指輪と同じものが嵌められていたのだ。
そして、右手の小指にももう1つーーー。
「右手のその指輪、確かお兄様もっ……あ!」
部下2が口走った内容に、部下その1が思わず肘で小突く。
慌てて口を接ぐんだがもう遅い。
しかし、紬はクスクス笑っていた。
「ああ、あの食事の時に見たんだね」
部下達は恐る恐るコクッと頷いた。
「あの時、右手しか見えなかっただけで治の左手の同じ位置にも『同じ』指輪は嵌まっていたんだよ」
「「……?」」
左手の薬指と右手の小指。
3人ともに同じ指輪を嵌めているーーということか?
頭のなかでこの事がグルグルと回る。
「要は、私が二股掛けてるってこと」
「「……。」」
完全に地雷を踏んだ。
心なしか青くなった顔をしている部下達は中也が戻ってくるのを切に願った。
無言になった事で関心がソファの濡れ具合に戻った紬はタオルでその場を拭き始めた。
そうこうしている内に中也が戻ってくる。
「紬、手前の手袋の替えが無ェ……って如何した?顔色悪ィぞ?」
「「否………その……」」
「?」
中也は疑問符を浮かべるが、聞き返さずに紬の隣に戻った。
中也が座ると直ぐにコロンと横になって膝に頭を乗っける。
中也も直ぐにその頭に手を乗っけた。