第22章 想歌
閉まる扉を確認してから中也は渡された書類を読み始める。
「潜入か。面倒な案件持ってきたな姐さんも」
「ん~……」
「「「!」」」
パラパラと書類を捲っていると、中也の膝の上から呻き声が発せられる。
「………手」
「ん」
紬が目をうっすら開けて一言だけ呟く。
何を要求したのか直ぐに理解した中也は書類から片手を離して紬の頭を撫でることを再開した。
満足したのか、紬は直ぐに目を閉じる。
「……水」
「……おい。水用意してくンねェか?」
「「!直ぐにっ!」」
本日初めての指示に部下2人は直ぐに反応して用意に取りかかった。
水とは云えどご所望しているのは幹部。
水道を捻って出てくる水なんて用意していいわけがない。
ミネラルウォーターを用意して水差しに移し替えてから中也の元に急いで運んだ。
それがいけなかった。
ガッ!
「「あ。」」
「あ?」
部下の間の抜けた声が重なった。
それに反応するように部下達の方を振り返った瞬間だった。
バシャアッ!
「「「……。」」」
ペットボトル一本分の水が、中也の頭に降り注いだのだった。
辛うじて紬の上に落下する予定だった水差しをパシッと受け止めることは出来たようではあるが……。
ポタポタと落ちる滴が紬の頬にも伝わる。
「……室内で水遊びかい?中也」
「そんなところだ」
スッと目を開けた紬の頬を、手袋をしたままの手で掛かった滴をぬぐってやる中也。
部下が慌ててタオルを持ってきて、土下座する。
「もっ、申し訳ありませんでしたぁ!!」
ゆっくりと起き上がった紬はへらへら笑って、「それよりも飲み水をちょーだい」と笑って云う。
その声は何時もと違って掠れていた。
もう1人の部下が持ってきたタオルを受け取ると中也は紬の頭に被せて拭き始めた。
「手袋濡れてて気持ち悪い」
「あ?ああ、悪ィ」
濡れた顔をごしごし擦ったせいで濡れた紬の手袋と自身の手袋を外して、再びタオルで濡れたところを拭いてやる。
「「……あ。」」
「「?」」
そんな2人のやり取りを新しい水とタオルを持ってきた部下が見て、素っ頓狂な声をあげた。
その声に中也達が反応するも、何でもありませんと首を横に振った。