第22章 想歌
各々がそれなりに忙しく動き回り、2日が過ぎた。
「「「乾杯」」」
予定通り、3人は##プリンスホテルに来ていた。
周りに誰も居ないVIPルームでタイミングよく運ばれてくる料理に舌鼓しながら酒を楽しんでいた。
「あ、コレ美味しいね!」
「珍しいモン知ってんなァ」
「でしょう?地酒を飲み歩いたって云ってたよ。流石、日本料理で名を馳せたシェフだね。こだわりが凄い」
誰にも邪魔されない空間で、食べて飲み。
時々、何時も通りの喧嘩を挟んで久し振りにのんびりとした時間を過ごす。
何れくらいのんびりとしていたかは判らないが、コースの最後に提供されるデザートを食べ終わり、追加の酒とツマミを半分以上空けるほどには時間が経っていた。
「ん?電話だ。一寸、出てくるね」
そう云って太宰が離席した。
「彼奴が紬以外の電話に即座に出るなんて珍しいな」
少し顔を赤らめた中也が、退室していく太宰を目で追いながら云う。
「相手にもよるんでしょ。表示があの名探偵の名前だった」
「ああ、納得」
目敏く其処まで確認していた紬にも相手にも納得した中也は持っていたグラスの酒を一気に煽った。
そして、自身も懐から何かを取り出してコトリと机に置いた。
可愛らしい瓶に入った、薄桃色の液体ーーー。
「………一応訊いてあげるけど何コレ」
「媚薬」
「……。」
酒瓶からグラスに注ぎながらアッサリと答える中也に呆れた眼を寄越す。
「普通さぁ、こう……何かに仕込んで飲ませたりするんじゃないの?」
「手前相手に一服盛るとか、強大な組織の殲滅作戦より頭使うわ」
「あー……うん。まあ、そうかもしれないけど」
「云うこと1つ訊いてくれンだろ?」
「……。」
紬も莫迦ではない。
中也が媚薬なんてモノを紬に提示した時点でお願い事を消費しようとしていることくらい想像がついていた。
問題は、そこではない。
何故、太宰が離席したタイミングで薬を寄越してきたか、だ。
「……はあ。」
紬は態とらしく溜め息を着くとその薬瓶を手にとって、一気に飲み干した。
中也が手を差し出す為、その瓶を返却する。