第22章 想歌
『「……。」』
暫く無言が続いていると紬の部屋の扉を叩敲する音が響く。
返事をせずにいた紬だか、相手はお構い無しに入室してきた。
「何だよ。起きてるなら返事くらいーーって何だァ?その顔は」
「……中也」
書類を持ってきただろう中也は紬の顔を見るなり近寄ってきて、隣に腰かけた。
電話を耳に当てたままでいるところを見て、電話の相手まで察する。
『げ。中也が紬に何の用なの?』
「あ?用なら山のようにあるっつーの。手前と同じで書類1つ1つに微妙な嫌がらせしてやがるからな!」
音漏れレベルの太宰の嫌そうな声に怒りながら返事をする中也。
しかし、その手は声に反して紬の頭を優しく撫でていた。
紬はポスッと中也の肩に寄りかかって、
漸く少し笑った。
『紬、中也に代わって』
「ん」
紬は端末を中也に渡す。
それを少し嫌そうに受け取ると耳に当てた。
『ねえ。紬に近付いていた男は?』
「とっくに片付けた」
『そう。じゃ、引き続きちゃんと番犬しててよ』
「……云われなくても分かってるっつーの」
『あ!私、仕事で後2日も紬に会えないんだから中也も抜け駆けしないでよ!?』
「五月蝿ェ!だったらとっとと仕事しろや!」
太宰が小声で話始めたのか紬の耳には中也の声しか聴こえない。
しかし、おおよそのやり取りを把握しているのか楽しそうにし始めた紬に中也も、電話越しである筈の太宰も安堵した。
『中也、少し紬を休ませて』
「ああ……分かってる」
『うふふ、よろしく』
じゃあ2日後ね、と云って太宰から通話を切ったのだった。
中也は端末を紬に返すと書類を机に置いた。
「帰るぞ。支度しろ」
「中也の家?」
「………手前の家。送ってやる」
中也がそう云うと紬は準備すべく立ち上がった。
疲れているのだろう。のろのろと支度している紬をジッと見て中也は小さく呟いた。
「部屋に連れ込んだら手ェ出すっつーの」
「…?何か云ったかい?」
何でもねぇよと云って中也も帰宅するべく準備を始めたのだった。