第22章 想歌
「治の急所を的確に撃ち抜いて死に追いやった人物が特定できたよ」
『……。』
今回の『新種の薬物蔓延事件』は、暴力団員の父親を憎んでいた男が復讐するために起こした騒動だった。
父親の所属する暴力団の資金源である違法薬物『楽園』を改良し、『理想郷』と銘打った薬を売買することで暴力団の活動資金に打撃を、そして自分達の活動資金を得ることが目的だった。
しかし、その過程で偶然ではあるが更なる化学兵器『黄泉』を作ることに成功してしまった。
よって、彼の復讐は資金面の打撃だけでは留まらずにその暴力団よりも力を持つ組織を設立して支配する、それが目的になったのだ。
しかし、この界隈において。
新たな陰での動きにポートマフィアが気付かないわけが無い。
そんな事にも気付けない連中は、矢張り『素人集団』と云えるだろう。
凡てをあっさりと見透かされた連中は、ポートマフィアに抵抗する事も出来ずに一方的に殲滅されてしまった。
ーーーだから『可笑しい』のだ。
「此方側でも有名な狙撃手だった」
『それはそれは。狙いが完璧なワケだ』
やれやれ、と。
小さく息を吐きながら返事をした太宰の声を聞いて紬は顔をしかめた。
そう。
そんな『素人集団』に元マフィア幹部でもあった太宰の急所を『的確に』撃ち抜ける技量が有るわけが無いーーー。
山吹と××を2人きりにさせて、会話を凡て盗聴していた時だ。
『『異能無効化』の持ち主ってことで困っていたら『助言と協力』をしてくれた人がいた』
××は、そう山吹に告げていた。
この発言を聞いて紬は中也の執務室で捕らえた男を拷問した。
そして、その男がもたらした情報を整理、纏めると1つの答えにしか行き着かなかった。
『「魔人ーーーヒョードル・ドストエフスキー」』
紬と太宰の声が綺麗に重なった。
「彼の人がこの街で動き始めている。否、本当はもっと早くから動いていたのかもしれない」
『うふふ。挨拶代わりって事かな』
「……治」
『大丈夫だよ紬』
「……。」
落ち込んでいる様子の紬に云い聞かせるように話す太宰。
これからの事を考えればけっして「大丈夫」な訳が無いのだ。
ーーーこの双子は、それが判っていた。