第22章 想歌
「ところで紬」
「何だい?」
「手前の計画を確認した上で作戦練り直したンだけどよ。明らかに可笑しい1箇所だけ『手前の立案通り』に遂行した」
「!」
「あ、そうなの?てっきり全部変更したのかと思ってたけど」
自身に掛けてあった外套をハンガーに掛けてポールに吊るしながら紬は返事をした。
「それが今件『唯一の損害』になった」
「損害?冗談。アレに価値なんて無いよ」
ニコッと笑った紬に「矢っ張りか」と小さく呟く声が聴こえた。
今回の殲滅任務で、負傷者は多数居たものの重傷までに至った者も少なく、ポートマフィアとしての損害は中也の云った通り『1つだけ』だった。
そう、あの伝令1名の死亡のみーーー
「おい?」
「…!」
部下その1が何かに反応したことに対して部下その2が呼び掛ける。
先刻のやり取りをみてしまってからは中也の私情で殺したと確信していたのに。
真逆、彼が死ぬよう仕向けていたのはーーー
「あの伝令でおしまい」
「云っとけっつーの」
「「!!」」
中也は目を通し終わった書類に何かを素早く記入すると紬に返しながら舌打ちする。
寝落ちる前に書いていただろうそれは、今回の一件の報告書だった。
中也が書き入れたのは日付。
間諜の殲滅完了報告書類と名打たれたそれはリストになっていた。
名前の横に欄があり、既に処分されている××達の名前の横には「昨日」の日付が印されてある。
其所に名を連ねていた伝令の所に日付を記入したのだ。
「これで後1ヶ所ー♪」
此れで空いているのは山吹の名前の横だけとなる。
凡てを見越している紬に寒気を覚えた。
否、紬だけではない。
その意を会話も無しに汲み取って実行してしまう己の上司に対してもだ。
「ふふっ。じゃあ欲しかった情報は貰ったから戻るね」
「寝るなら仮眠室行けよ」
「分かってる」
そう云って部下達の横を通り過ぎる。
その通り過ぎ様ーー
「私達を敵にまわすと云うことは、こういうことだよ」
「「!?」」
慌てて紬の方を振り返る2人。
紬はニコニコしながら「お休み」と云って退室した。
寒気を抱いたことすら見透かされている。
ーーーその事実に言葉が出なかった。