第22章 想歌
一仕事終えて、部下達と自室に戻ってきた中也は執務室の扉を開き、ドアノブを握ったまま固まった。
「「「……。」」」
普段、中也が座っている席を黒い塊が占領していたのだ。
固まった理由はそれだけでは無い。
山ほど積まれていた書類が無くなっているのだ。
恐らく、その書類を何処かにやった人物はペンを持って机に伏せている。
動くな、と部下に指示を出して中也だけが入室した。
完全に間合いに入っているのに、黒い塊はすよすよと寝息を立てている。
「紬……おい、起きろ。眠いなら仮眠室行け」
「んーー………」
ソッと手を伸ばして肩を優しく揺さぶると僅かに反応を示す紬。
はあ、と息を吐いて紬を抱えると傍に設置してあるソファに横たえた。
羽織っていた外套を紬に掛けてやり、サラッと髪を撫で付ける。
「「……。」」
心の底から慈しむような仕草に、向けている笑顔に。
部下達は目を見開いて驚いた。
こんなやり取りをする2人を見るのは初めてだったのだーーー。
中也は自席に座ると手招きした。
入室許可を貰った部下達が部屋に踏み込んだ瞬間、ソファからニョキっと何かが飛び出た。
「「!?」」
「ん……あれ」
「起きたか?」
「んー?」
そんな紬に吃驚する部下達と、「矢っ張りな」と小声で呟いた中也が一斉に紬に注目した。
話し掛けられて紬も中也の方を向く。
「あ、帰ってたの」
「おう。云っとくが起こしたからな?」
「そう?」
ふぁーと伸びて、欠伸をして。
目を擦りながら中也の傍まで歩いてきた。
「任務は?」
「問題無ェよ」
「あれだけ小規模なら中也、暴れ足りないでしょ」
「ああそうだな」
そう云って机の書類を手に取りながら何かを思い出した中也は書類を見たままで紬に話し掛けた。