第5章 工作
紬は首領の部屋から去ると、目的の人物を捜して歩き回る。
建物の外に居るという目撃情報を元に、建物に寄り掛かって一服していた人物に声を掛けた。
「広津さん」
「!」
その人物は紬の声を聞くと、その火を消した。
「善かったのに。大した用でもないし」
「もう吸い終わるところだったから君の気にするところではないよ。で?私に何か用かな?」
寄り掛かっていた体勢を整えて紬の方を向く。
「ああ、そうそう。芥川君が派手にやられたらしいじゃないの」
「その事か」
広津は今まで任務で不在していた筈の紬の耳に、その情報が既に入っていることに肩を竦めた。
「止めに来たのかな?」
「そう思う?」
「……。」
クスッと笑って広津の隣に移動し、壁に寄りかかる。
「広津さんが部下を切り捨てられない事は判っているよ」
「彼女は我々の上司だがね」
「嗚呼、そうだった」
紬の様子を見る限り、自分の頭に過った不安は芽を出さずに済むようだ。
「広津さんの好きにして善いよ」
「……君は何でもお見通しだな」
「うふふ。そんなことはないよ」
よっ、と云いながら紬はもと来た方向へ身体を向けた。
「黒蜥蜴全員の命令違反を裁く業務量を考えたら合理的だと踏んだだけだよ」
「そうか」
広津はフッと笑いながら
去っていく紬の背中を見届けた。
その夜、芥川が襲撃を受けて連れ去られ
その報告を訊いた樋口が単身で敵に向かっていく。
その上司のために、広津を含めた黒蜥蜴も襲撃に参戦し、事態は無事に終息したのであった。