第21章 終焉
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「中也さん………」
蕩けきった声で隣にいる男の名を呼び、その胸に頭を寄せる。
その声に応じるように中也は直ぐに優しく頭を撫で、額に口付けた。
山吹は今、一糸纏わぬ姿で中也に抱かれていた。
「何だよ。甘えるじゃねえか」
クッと笑いながら山吹を抱き締める。
「だって……夢かもって」
「夢、なァ」
「ひゃあ!?」
胸の膨らみを柔らかく揉む。
「こんだけ感じといて夢とはなァ?」
「やっ……だって…!」
「だって?」
中也は手を止めて山吹の顔を覗きこんだ。
「中也さんが……私を受け入れてくれるなんて思ってなかったから……そのっ…」
真っ赤になった顔で云う山吹に「あー…」と言葉を吐く。
「まァ、な」
「中也……さん?」
「女に本気で惚れたことなんざ1回だけだからな」
フイッと顔を反らして云った。
その顔はどことなく朱云く山吹はクスッと笑った。
「今、本当に嬉しい……」
「……。」
そう云った山吹の顔に、ほんの僅か陰が差したのを中也は見逃さなかった。
「なァ『蓮』」
「!?」
突如、低い声で名前を呼ばれてビクッと反応する山吹。
身体までみるみるうちに赤くなる。
「お前、偶に憂いが混ざったような顔するな?」
「……え?」
「自覚無ェのか」
中也がそっ、と山吹を抱き寄せる。
「其処に惹かれたっつーのもあるが……なぁ。俺に隠してることあンだろ?」
「!!」
山吹が目を見開いた。
「云いたくなきゃ云わなくても善い……だが、紬にそれは通じねぇンだよ」
「………太宰幹部……」
中也の腕に力が篭る。
「蓮を傍に置いときてェから云っておくが、彼奴は突然蓮を怪しみだした」
「っ!?」
中也の腕にビクリと震えが伝わる。
「紬とは腐れ縁とは云え、永い間相棒やってる。だから………彼奴が理由もなく怪しんだりするわけがないことも判ってンだ」
「……。」
中也の言葉を黙って聴いている山吹。
「今なら未だ間に合う」
「……え?」
ソッと頬に手を当てて、中也は静かに云った。
信じている相棒と、信じたい彼女ーーー
その顔は、葛藤している顔だった。