第20章 忘却
痛みのあまりに涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で小柄な男を見る。
「手前のせいで此方は迷惑被ったんだよ。寧ろ脚の1本で俺は済ませてやンだ。感謝しろよ?」
獰猛な笑みを浮かべた男に対して必死にコクコクと頷く拘束された男。
今日の未明、探偵社に依頼し、行動を共にしていた案内係だったーーー。
中也は地下から出ると直ぐにロビーに向かった。
「お疲れ様でした」
「おう」
可愛らしい笑顔を浮かべて迎えてくれた女性に返事をする。
「地下に何の用だったんですか?」
「部下が拷問をヤリ過ぎてないか一寸監視にな」
「そうでしたか」
想像したのだろう。
眉間に皺を寄せた山吹に苦笑して頭を撫でる。
「お前、今から暇か?」
「えっ…!?」
思わぬ声掛けに山吹の声が裏返った。
「ウチが経営してるホテルで、今度限定で提供するコース料理を用意してるらしいんだが、その試食会なるものを紬に押し付けられたンだ………山吹さえ良ければ一緒に如何だ?」
「行きます!」
「決まりだな」
クツクツと笑い出した中也の顔をみて真っ赤になった山吹の腕をとった。
「行くぞ」
中也と山吹は本部を後にした。