第20章 忘却
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「先日のお話ですがーーー」
その社長である男は紬がカチャリとカップを置くのを待ってから口を開いた。
「何か動きがありましたか?」
「ええ。貴女の云う通り、若い男が付き人を2人連れて資金援助の申し出を」
「矢張りそうですか」
紬は口元に手を置いて考え込む。
紬がこの社長にお願いしたことは1つーーー
新たに企業を立ち上げるための援助を申し入れしてきた場合に報せて欲しい、と。
ただ、それだけだったのだ。
先日、紬は社長に宣言した通りに相棒と共に例の建物を破壊しに行った。
その所有主が『行方不明』となっているため、その時点で証拠も相手も逃げたのだろう。
中は「想定通り」、もぬけの殻だった。
そして、紬はその先を読んでいた。
居場所の確保。
そして、仕入れルートの確立。
元より製薬会社の名残だったあの建物にはかなりの種類の薬品が残されていた。
そう考えれば、自然に「薬品」を入手できるのは「製薬会社」だと思うだろう。
大学という教育機関とも離れているため結び付けづらいと踏んでいたかもしれないーーー。
そして数ある企業の中で、この会社に資金援助の申し入れを行ってくるだろうことは予想できていた。
この界隈で企業するにあたって、
後ろめたい連中が一番に考えるリスクは『裏との繋がりがあるか』だから。
この企業が『裏との繋がりが無い』ことは知っているだろうから、下手に他の会社に申し入れて失敗するよりは正確さを選ぶだろう、と。
「防犯カメラの映像を紙媒体に写したもののため若干、画質が劣りますが」
渡された紙には男が3人、写っていた。
「……。」
紬はその紙を懐に仕舞う。
そして、フワッと笑ってお礼を述べて立ち上がった。
「もうお帰りになられるのですか?」
「ええ。仕事が圧してまして。また機会を改めて挨拶に参ります」
「また何か協力できることがあれば仰って下さい」
社長は笑顔でそう述べた。
紬は悟られないようにフッと笑うとニコッと顔を作る。
「勿論です。私も貴方がお困りの時は尽力しますので何時でも連絡下さい」
そう云って紬は社を後にしたのだった。