第20章 忘却
『現状を理解して頂いた所で2点、申し上げたいことがあります』
『何でしょうか』
座り直して話を戻す。
『1つ目は貴方が譲り渡した建物を捜索し、状況次第では破壊します』
『!』
急にマフィアらしいことを述べた紬を否定するかと思われた程に社長は眼を見開いた。
が。
『仕方ありませんよ。社会に迷惑を掛けた薬の精製を行っていた場所ですし、元は私の一族の所有ーーー疑われたくは在りません』
『ふふっ、聡明な判断力をお持ちだ。その通りです。此処まで大企業に成長している貴方に濡れ衣を着せて、逃亡期間の目眩ましを行う心算でいることでしょう。たとえ、この会社が潔白でも凡てを調べるのに時間は要するし、疑われた時点で貴方の会社の信用に傷はついてしまう。そうなる前に先手を打つ必要がある』
『仰る通りです。しかし、私はそれに関与しないーーーそれで善いです?』
『勿論です。安心して下さい』
ニコッと笑って云った紬につられて顔が緩む社会。
『貴方にして頂きたいのはその後のことです。勿論、汚れるような仕事では在りません』
『一体、何をすればよいでしょう?』
躊躇うことなく紬に続きを促した社長をみて紬は内心でクスリと笑った。
完全に堕ちたな、と。