第20章 忘却
『何がきっかけかなんて興味ないけれどーーー間違いなく『彼』は社会を薬で汚染した』
『……。』
ハッキリと告げられて社長はもう一度、小さく息を吐いた。
『却説。世間話はこれくらいにして本題に入らせて頂きましょう』
そういうと紬は懐から1枚の紙を取り出した。
一番上には現在の場所ーーーこの会社名と住所と代表の名前が記載されていた。
以下も同様に、20近くの情報が羅列されている。
『……此れは』
『この界隈で『製薬会社』を営む、或いは病院関係以外で大量の薬を仕入れている企業のリストです』
『……。』
嘘ではないだろう。
そのリストにザッと目を通してそう確信した社長は紬に続きを促した。
『そのリストの一番下にある企業……御存知ですよね?』
そう云われて社長は確認する。
『……ええ。ここ最近で急成長してきた製薬会社です。新たなプロジェクトを共同で考えているほどに我が社とも取引があります』
その答えを知っているかのように紬はクスッと笑った。
『その会社、私が立ち上げたんですよ』
『!?』
社長が限界まで眼を見開いた。
『うふふっ。安心して下さい。『ポートマフィアのフロント企業』と云うことすら他に認知出来ないほどにその企業は民間人だけで経営を回していますから後ろめたいことは何一つしていない』
『……。』
『何故?という顔をしていますね』
『……お教え頂けるんでしょうか』
『勿論。大事な御得意様ですから』
『……。』
完全に紬に飲まれている。
冷静を装っているものの社長の背中は冷や汗が流れっぱなしだ。
『この企業の目的は『ソレ』です』
『!』
社長の手にある紙切れを指差して紬はニッコリ笑った。
『貴方達が警戒するのも無理はないでしょうが、貴方の社会にもルールが存在するように我々の社会にもきちんとルールがあります』
『ルール、ですか』
『そうです。勿論、中には物騒なモノも含まれておりますが、ソレを除いても絶対的なルールが幾つか存在します』
『……それは』
『秩序、ですよ』
『…………『秩序』』
社長は紬の言葉を繰り返した。