第20章 忘却
そうこうしている間に部下達の準備が整ったようだ。
紬は扉の方に歩いていきながら中也に話し掛けた。
「あ、その書類の仕事が全部終わったら今日は帰っていいから」
「ヘェ…夜に殲滅案件があんのにかァ?」
「うん。代わりに行くからそっちをお願い」
「熱でもあンのかよ」
ジトッとした目で見る中也。
「其方の仕事よりは憂さ晴らしになるからね」
「……そうかよ」
クスッと笑って扉を閉めた紬を見終わって中也は再び深い溜め息を着いたのだった。
結構な量の書類ではあるがパラパラと見て、大した内容では無いことを瞬時に判断した中也は仕事を再開したのだった。
パタン
閉まった扉を確認してから今まで黙っていた山吹が口を開いた。
「あの中原さん」
「何だ」
「今日非番って云われてませんでした?」
山吹に指摘されて顔を上げる。
「昨日……つーか今日に紬に貸しを作ったせいでこの様だ」
「太宰幹部って休みまで取り上げるんですか……」
「否、予告された『嫌がらせ』の中で此れが一番マシだっただけだ」
うんざりした顔で中也が話すのを見ながら山吹が顔をしかめる。
「まァ非番で家にいるよりは善かっ……!」
云い終わる前に顔を赤らめ、言葉が途切れた中也をポカンとした顔で見る。
「・・・え。」
『………自惚れンぞ』
数時間前に囁かれた声が山吹の脳内に反芻する。
「あー………何でもねェ。嘆いて呉ンならコレ早く片付けンぞ」
恥ずかしそうにフイッと顔をそらして書類記入に没頭し始めた中也。
遅れてその意味を理解した山吹の頬にも熱が集まりだす。
その熱を悟られないように山吹も書類の整理に勤しむのであった。