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【文スト】対黒・陰

第20章 忘却


机を埋め尽くす程だった書類も、全員の尽力のお陰で通常の量より少し多い程度までに減った中也の執務室で突如、間の抜けた声が聴こえた。


「ちゅーやぁーーーあーけーてー」

「……。」


その場にいた5名程の人間が一斉に中也の方を向く。
声で誰が云っているのか判る。
というより、こんな巫山戯た事を幹部である中也に出来る人間はそうそう居ないし、する人間に至っては一人に限られるーーー。
中也は長い溜め息を着くと、扉の近くにいた部下その1に開けるように指示を出した。


「うわっ!?大丈夫ですか!?」

「だいじょばない。重たいよぉー」


部下その1は目の前に聳え立った紙束を半分ほど抱えた。そうしたことで限られた一人の顔が見えるようになる。

「一応訊いてやるが、何しに来た紬」

「仕事を押し付けにだけど?」

「……。」

キョトンとした顔で何でもない事を話してると云わんばかりの態度をとっている紬に頭を抱える中也。

「悪いけど急用が入ってね。外に出るから誰か貸して」

「あ?」

珍しく理由が有ったことに驚いて反応が一瞬遅れた中也だったが、直ぐに何時もの2人を指名する。

「一寸、忙しくなるから此れお願い」

ドサリと置いた書類を一瞥して紬に顔を戻す。

「何処行くんだよ」

「以前、取引を持ちかけていたフロント企業から返事が来たから出向いてくる」

「そうか」

「あと悪いんだけどさ」

そう切り出した紬の目が冷えたことに気付き、真顔で話を聞く中也。


「今、芥川君達を動かしてるんだけど、あと2時間もしない内に任務が達成されると思うんだよね」

「………それで」

「狩ってきた獲物を殺さないように見張っていて欲しいんだ。一応、云い付けてあるんだけどさ」


芥川が紬の言葉を守らない訳は無い。
芥川の太宰兄妹に対する崇拝ぶりは異常だからだ。

しかし、それでも念を押すと云うことはーーー

「判った」

「うふふ。なるべく早く帰るから呉々も宜しくね。あ、死なない程度なら遊んで良いって云ってるから」

「手前が余計なこと云ったから心配事が増えてンじゃねぇか!」

「そんなに誉めないでよ」

「誉めてねェよ!」


ダンッ、と机を叩いて怒る中也に紬はヘラヘラ笑って返した。
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