第20章 忘却
戻ってきた敦をみて乱歩は声を掛ける。
「端末は返しておきなよ」
「あ、はい」
敦は太宰に借りていた電話を渡した。
「一体、誰に掛けたんです?」
「直ぐに分かるよ」
乱歩が云う。
そして敦に迎えにいくように、国木田に太宰から離れるように指示を出す。
それから数分後ーーー
「お連れしました」
敦が扉を開けて紬と中也、そして山吹を招き入れた。
「げっ!」
「あ?何だ太宰。点滴なんかして」
太宰は入ってきた中也を見るなり精一杯嫌そうな顔で声を上げ、中也は点滴に繋がれている太宰に顔をしかめた。
そんなやり取りを無視して紬が太宰に近付く。
「治」
傍に歩み寄りながら名前を呼ぶと太宰は少しポカンとして、苦笑した。
「下の名前で呼ぶってことは知り合い?だよね……お名前は?」
「………え?」
「「「!?」」」
太宰が紬に投げ掛けた言葉に紬は固まったように歩みを止めた。
中也をはじめ、一人を除いた人間達は驚きの顔をしている。
除かれた一人、乱歩だけが「矢っ張り」と呟いた。
全員が驚いて動けない中、中也が何かを察して直ぐに紬に向かって駆け寄った。
紬は懐から何かを取り出すと素早くそれを太宰に向けた。
パァン!
「「「「!?」」」」
響き渡る銃声ーー。
紬が太宰の頭部に向けて本当に発砲したのだ。
「っ!?」
流石の行動に太宰も目を見開いている。
カランカラン……
弾は重力を失って中也の足元を転がった。
「中也邪魔!退いて!」
「落ち着け紬!」
紬から乱暴に銃をもぎ取ろうとするが紬も激しく抵抗する。
「………中也の新しい相棒かい?随分と気性が荒いようだけど……」
「黙ってろ糞太宰!!火に油注ぐんじゃねェよ!」
「……。」
めずらしく本気で焦っている中也に太宰は口をつぐむ。
やっとの思いで紬から銃を奪い取ることに成功した中也は、その銃を床に落として蹴り砕いた。