第20章 忘却
「ふぁぁあ~~……眠いなぁ。ヤル気出ないなあ」
「手前の場合、何時もだろうが」
後部座席に座っている紬に呆れながらツッコミを入れる中也。
助手席には山吹が座っていた。
「眠いのはどっかの誰かさんが酔い潰れたせいで迎えに行った分、私の睡眠時間が削られたせいなんだけど」
「だから悪ィと思って態々迎えに来てやったんじゃねェか!」
「うわー悪いと思ってる人間の態度じゃないなあ、それ」
「五月蝿ェ。手前が一々突っ掛かって来るからだろーが」
「中也が一々云い返すからでしょ」
「ンだと!?」
「お二方とも落ち着いて下さい!」
慌てて止めに入った山吹に中也がグッと言葉を飲み込んだ。
「おやぁ~?素直だねぇ中也」
とニヤニヤしながら云った時、紬の端末が着信を告げる。
「お?」
直ぐに取り出して出たところをバックミラーで確認した中也は直ぐに相手が分かり溜め息を着いた。
大人しくなるから良いか。
と、思えたのはほんの僅かだった。
「もしもーし。如何したんだい?こんな朝早く…………治じゃないね、君」
「!」
紬の声のトーンが下がったことに中也が反応する。
「……ああ、敦君か。お早う。何で治の端末で私に掛けて来たんだい?」
普通の声に戻して話を続け始めた紬に安堵したのも束の間ーーー
「は?ーーーーー場所は」
急に紬が殺気だしたのだ。
「中也、武装探偵社」
「……了解」
通話は終わっているはずなのに端末を耳に当てたままの紬に詳しく聞くことなく中也は行き先を武装探偵社に変更した。
ーーー
通話終了の釦を押して敦は長い息を吐いた。
太宰の端末を大事そうに握って医務室へと戻るべく方向転換した。
乱歩に指示を受け、紬に連絡したのだ。
電話口で武装探偵社に向かって欲しい……みたいな意味合いの会話が聴こえたのだ。
恐らく、乱歩に指示された任務は全う出来ただろう。
『『太宰が撃たれて重傷を負った』ーーーこの一言さえ伝えれば大丈夫だ』
元より、乱歩はこう云っていた。
「怖かったな……紬さん」
しかし、殺気立っていた紬に恐怖しか感じなかった敦はもう一度だけ息を吐くと医務室に入っていった。