第20章 忘却
太陽が空を明るく染め上げた午前9時ーーー
「ん……」
「!?」
武装探偵社の医務室で太宰は目を覚ました。
「………此処は………」
「お目覚めかィ?」
太宰の視界に入ってきたのは見慣れた顔の女性だった。
「与謝野女医………ってことは此処は………」
「そ。武装探偵社の医務室だよ」
「………また死に損なったんですか、私は」
はは、と笑いながら上半身を起こす。
「正確には死んだンだけどねぇ。間一髪、『君死給勿』が間に合った………ってとこだよ」
「……そうですか」
説明を受けると太宰は自分の身体を見る。
確かに撃たれた筈の傷おろか、自殺未遂で作っていた小さな傷すら無くなっていた。
しかし、大量に出血したせいか点滴されている状態。
顔色も真っ白のままでいるところを見る限りでは、怪我は善くても体調は優れないようだ。
「そうだ。犯人はーーー」
と状況を確認しようとしたところ、医務室に数名の入室がある。
「「「!」」」
「っ太宰!」
太宰の顔を見るなり駆け寄る国木田と社長、そして乱歩と敦だった。
「いや~済まないねぇ国木田君」
「っ……!良かった……」
本気で心配している国木田を何時ものように揶揄う事をせずに、項垂れているその肩をポンポンと叩いて笑い掛けた。
「済みません、社長」
「否、佳い。未だ顔色は優れないな。暫くは安静にしておくように」
「有難うございます」
そう話して乱歩の方を向く。
「乱歩さんが帰社したからには安心ですね」
「……。」
乱歩は少し険しい顔をして太宰を見ている。
「……乱歩さん?」
「太宰」
真剣に話し掛けられている事を悟り、太宰も僅かに姿勢を正した。
「はい」
「端末貸して」
「え?あ、はい……着ていた外套の内ポケットに」
太宰が云うと乱歩の指示で敦がそれを手に取る。
「太宰。撃たれた直後、国木田に何か云ったそうだけど覚えてる?」
「え?」
太宰は考えた。
撃たれた時?はてーーー
考え込む太宰に国木田が少し驚く。
「忘れたのか?撃たれて直ぐに…恐らく『そういうことか』と云っていたんだが」
「『そういうこと?』……私が?」
「……。」
覚えてないのか?とやり取りをしている太宰達を見て乱歩の目は鋭くなった。
「敦」
乱歩に指示を受けた敦は退室していった。