第20章 忘却
同時刻ーーー
「ふぁぁあ~~………」
「やる気の抜ける声を出すな。勤務中だぞ!」
「国木田君は元気だねぇ~」
太宰はもう一度欠伸をしながら隣を歩く国木田に云った。
その隣には苦笑した若い男がもう一人居た。
探偵社の社員ではないその人物は、こんな夜中に太宰達が働いている理由ーーー依頼人だ。
この界隈で多発している『大切なモノの記憶を奪う』異能力者の被害は収まるどころか広まるばかりだった。記憶と引き換えに多額の金を要求する手口。
そんな大金が銀行などの機関にでも持ち込まれれば見えてくるものもあったが、それらしい金の動きも見えず、更に最悪なことに探偵社の頭脳こと江戸川乱歩は、長期の出張で不在。そのお陰で探偵社はこの案件に苦戦していた。
そんな折りに舞い込んできた被害届。
この好機を逃すわけにはいかないーーー。
「済みません。こんな時間なのに」
「気にするな。此方としても現行犯で捕える絶好の機会だからな」
今回は、この依頼人の勤めている社長が被害者らしい。
その金の受け渡し時刻を『午前2時』と犯人が提示してきたのだ。
請求された額があまりにも高額すぎて警察に駆け込んだが、信じてもらえずに武装探偵社に相談に来たとの事だった。
「何もこんな夜中に取引なんてしなくてもいいのにねぇ」
「矢張りマフィアの仕業じゃないのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。寧ろ、そんなこと如何でも良いよ」
「………ポートマフィアは」
「無関係。これは断言できるよ」
「そうか」
理由など深く聞かずに納得する国木田。
元ポートマフィアの男が云うんだ、と云う思いが5割。
ポートマフィアにいる妹からの情報なのだろうと思ったのが5割。
ツッコミたくなかっただけかもしれない。
「あ、此処です」
着いた先は横浜にある小さな工場。
探偵社からはそう離れていなかったが、この会社がどんな物を扱う会社なのかを国木田は知らなかった。
案内されるがまま、工場内に入る。
「「!?」」
3人の足が一瞬、止まった。
入ってすぐの所に人がうつ伏せ倒れていたのだ。