第20章 忘却
「真逆、1日会えないだけで淋しいのかァ?」
「ふぇ!?」
酔っているのだろうか。
妖艶な笑みを山吹だけに向けながら云った中也に驚く山吹。
自分の反対側ーーー。
中也の右隣に座っている広津は此方側に背を向けており、梶井や部下達と愉しそうに話している。
まるで、2人だけを空間から切り離したような状態ーーー。
コクンッ
「っ!」
山吹は酒の力を借りて頷いた。
その返しに中也は大きく目を見開く。
そして、山吹の髪に手を伸ばしスルッと一撫でするとクツクツと笑い始めた。
「………自惚れンぞ」
「!」
言葉の意味を少しの時間を掛けて解釈し、更に顔を真っ赤に染める山吹。
「今度は2人で、な」
「っ!」
山吹にしか聴こえないほどの声で呟く中也の声は山吹の鼓動を早く、大きくさせた。
小さく頷くと中也は山吹の頭を撫でて再び酒を一気に煽る。
その顔が先程よりも赤みを増している事に気付いて山吹はニヤけそうになるのを必死に堪えたのだった。
中也は直ぐに追加の酒を注文すると、先程の怒りを思い出したかのように紬に対する愚痴を広津達に向かって話始めたのだった。
それから1時間も経たない内に中也はカウンターに伏せていた。
「やっと静かになったな」
「うんうん」
広津の言葉に梶井が同意する。
「中也さん寝ちゃいましたか」
「未だ本調子でな無いだろうし疲れてもいるだろうからな」
広津が一服しながら云う。
「でも如何します?」
部下その1が広津に問う。
「迎えを呼ぶしかないな」
「来ますかね?今日、一度も見掛けてませんよ」
「今日は1日中外出していたようだからね」
「「「?」」」
梶井と広津のやり取りを疑問符を浮かべながら見ている部下2人と山吹。
広津が端末を取り出して何処かに電話を掛ける。
少し話して店名を伝えると通話を切ったようだ。
「直ぐに迎えに来てくれるそうだ」
「お。近くに居たんですかね?」
「帰宅途中と云っていたな」
普通の声の大きさで話しているが中也は起きる気配を見せなかった。
「あの。何方がお迎えに?」
山吹が漸く疑問を口に出す。
広津がその答えを述べようとしたときに入店を知らせる鐘が鳴った。