第20章 忘却
眠気覚ましに歩こう。
序でにロビーで珈琲でも購うか、と。
部下達を仮眠室に送った後も一人で仕事を続けていた中也はほんのり薄明かるくなった空を自動扉越しにぼおっと眺めていた。
しかし、直ぐに人の気配が己に向かってきている事に気付きその方向を伺う。
「あ、お早うございます!」
「おう」
現れたのは伝令の男だった。
「中原幹部も早朝出勤ですか?」
「いや」
「嗚呼……済みません」
酷く疲れている様子に何かを察して伝令の男はペコッと頭を下げた。
「手前は早いな」
「そうなんですよ。時計が狂ってて1時間も早く来てしまったんです」
「はァ?」
男ははぁ、と溜め息を着いて云った。
良く見ればブラウスの釦は2ヶ所、掛け違えているし髪もボサボサだ。
「遅刻だって慌てて飛び起きて来たんですけど、時計が一時間半狂ってただけで………災難です」
それでその格好か、と納得した中也は伝令の男に飲み物を奢ってやった。
「有難うございます!!」
自動販売機の隣に設置されている休憩スペースの椅子に2人腰掛けて飲み物を飲み始めた。
「最近、手前ばかり見るな」
「いやぁ~先輩から太宰幹部の伝令を代わって欲しいと頼まれてるからですかね?」
「あー……そういやそンな事云ってたなァ」
珈琲を飲みながら前のやり取りを思い出す。
「太宰幹部って謎が多くて何て云うか神秘的ですよね」
「は?神秘的?ああ、そうか。手前も疲れてンだな」
もう一本飲み物奢ってやろうか、と本気で云う中也に手を振って断りを云う伝令。
「いやっ、疲れて…はいますけど正常ですよ!?」
「遠慮すんなって」
「いやいや!!」
暫くこの攻防を続ける2人。
こんな早朝だ。止める人間も居ない。
「謎が多いのは判らなくもねぇが………彼奴の何処に神秘的要素が在るって?」
「容姿もさることながら言動の一つ一つも謎めいていて惹き付けられるというか」
「彼奴の言動なんざ『疲れた』『面倒臭い』『後よろしく』と云って逃走を企てる人迷惑なモノでしかないが」
「それを含めてです!この間の容赦ない仕事振り!正に『ギャップ萌え』ですよ!」
「ギャッ……?何だそりゃ」
目をキラキラと輝かせながら云う男に呆れ顔を返す中也。