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【文スト】対黒・陰

第20章 忘却


閉まった扉を見ながら部下達が苦笑を浮かべる。

「本当に確認に来ただけなんですね」

「手伝ってくれるわけじゃなかったんですね」

異なる言い回しだが内容に相違ない、重なった声に中也はため息1つ付かずに書類を手に取った。


「彼奴も彼奴で今はデカい山抱えてるからな」

「「え」」


部下達の反応に何か云うわけでもなく万年筆を走らせる。
つい数時間前迄は美味しいものを好きな人と共に人の金で食べて、仕事なんて其方退けだった紬からは想像も付かなかった。


「中也さんって会話しなくても太宰さんの考えが判るんですか?」

ポツリと疑問に思ったことを口にしてしまう部下その1。

「あ?」

「あっ、いえ!済みません!」

何で声に出してしまったんだろう。
慌てて部下達も筆をとり、書類に向かう。


「逆だ」


何時の間にか顔をあげて部下達の慌てふためく姿を見ていた中也は少し笑って答えた。

「「え?」」

「俺が如何こうじゃなくて紬が俺の思考と行動を読んでンだよ。如何せん1つ2つの会話だけで……いや、彼奴が関わることにした時点で、それらの事柄は掌の上で自在に操れるほどだからな」

「「……。」」

そんな真逆!
なんて云えない程に、ここ数日で心当たりが出来てしまっている部下達。
それも1つではなく幾つもだ。

しかし、だ。

それを理解して行動できる中也も
本人に自覚が無いにしろ、矢張り似た者だと云うことだろう。


黒社会最恐と恐れられる程のコンビーーー『双黒』


「矢っ張り凄いですね『双黒』は」

その言葉にウンウンと頷くもう片方。

「まあ噂になる程の影響を最初に与えたのは彼奴の兄の方だけどな」

「兄?」

「あの、太宰さんにそっくりの!」

「そう。紬の方が性格は容赦ねぇが、基本的には物事に興味関心が無え。けど今回は………。彼奴『怪我』だけは嫌うからなァ……」

「「……?」」


言葉の意味が判らずに首を傾げる2人。



「ほら。とっとと片付けんぞ。1時間は寝てえ」

「「あ、はい!」」


深く聞くなってことか、と察しの良い部下たちは
中也の話題転換に確りと乗っかって書類整理を勤しむことにした。
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