第20章 忘却
「うふふっ。揶揄い甲斐があるなぁ」
「お疲れ様でした」
愉しそうに端末を見ながら、ソファに座った紬に労いの言葉と温かいお茶を持ってくる部下その2。
お礼を述べてお茶を啜ると端末を部下に見せる。
「良く撮れてるでしょー」
「本当ですね!あ、データ貰えませんか?」
「良いよー」
そう云うと今撮影した画像データを送信してあげる。
横抱きーーー所謂、お姫様抱っこを中也にされている山吹の画像だ。
「中也の脅しに使うのかい?」
「脅し?!いやっ!起きたら山吹さんにあげようと思って。仕事の励みになりますよ、きっと」
「ふーん。そういうものかい?」
「そういうものですよー。太宰さんも写真でも良いから好い人を観ておきたいとか無いー………」
と。
此処まで口走って大失態を犯してしまったことに気付く。
徹夜で脳が正常に働いていなかったせいだと一瞬で責任を徹夜に押し付けた。
「うーん。顔は毎日見てるし」
「あー!!そっくりですもんね~!お会いして吃驚しました!」
「ふふっそうだねぇ。君の云う通り、其方は鏡を見れば事足りるから矢っ張り必要ないかな」
「ですよねー!!」
あはは、とひたすら笑う。
笑って話題が変わらないかを切に祈る部下。
あれ程、この話題に触れてはいけないと云われていたのに!
唯一の救いは紬の機嫌が悪くならなかった事だけだ。
いや、悪くなる事態に発展しようものなら今すぐにでも死ぬだろうが。
「何で手前は未だ此処に居ンだよ」
祈りが通じた。
間もなくして中也が戻ってきたのだ。
「お疲れ様でした中也さん!!!」
「お、おう?」
突然、物凄い勢いで声を掛けて紬の時同様に素早くお茶の用意を始める部下。
何だぁ?と云う目で見られたものの特に問われることなくお茶を受け取ると啜り始めた。
「中也、そろそろ私も仕事しようかと思ってるんだけど其方は如何?」
「問題無ェよ」
「そ。」
紬はお茶を飲み干すとスクッと立ち上がった。
「帰るのか?」
「うん。何かこう……引っ掛かりがあるんだよねぇ」
「そうかよ」
中也の眉がピクッと動く。
そんな中也の反応など気にもせずに「じゃあねー」と去っていった紬に中也は溜め息を1つ溢した。