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【文スト】対黒・陰

第19章 策動


中也は一瞬で凡てを悟った。

ハラハラしながら中也と紬のやり取りを観ている探偵社員と、太宰。


「中也。早くしないと店員さんに迷惑だよ?」

「死なす………手前は何時か絶対に死なす」

「うふふっ。それは楽しみだなぁ」


ガクッと項垂れてから中也は大人しくサインをし、カードを受け取った。

そして、よく事情も飲み込めないままに全員は店を後にした。


「コイツ等の分は……まあ良い。どうせ俺への『嫌がらせ』に何も知らされずに付き合わせられただけだろうからなァ」

「おー。さっすが中也!嫌がらせを受けることに関しては免疫あるねえ」

「うるせェ!」

中也が探偵社員を一瞥しながら云うと紬がパチパチと手を叩く。
存在を忘れかけていた部下2人は深々と頭を下げている。
それを止めさせてから中也は太宰をビシッと指差した。

「だが太宰!手前は別だ!飲み食いした分、きっちり払いやがれ!!」

「何云ってるんだい中也ともあろう者が。私がお金なんて持っているわけないでしょ」

「自慢げに云うんじゃねぇよ放浪者がぁ!!!」

怒鳴る中也を同じ顔で笑いながら見る太宰兄妹。

居たたまれなくなったのか。
国木田が懐から財布を取り出す。

「太宰の代わりに俺が」

「あ?手前の金なんて要らねェよ眼鏡」

「しかし……」

「金が欲しいワケじゃねぇから気にすンな。大体、手前もこの糞兄妹に嵌められたクチだろーが」

「それは…否定出来ないが」

中也に説得(?)させられて国木田は財布を仕舞った。

「いやー人の金で飲み食いなんて本当に美味しいよね。ご馳走様紬」

「満足してもらえたなら良かった。また同じ事をする時は誘うから」

「うん。待ってるよ」

太宰は紬の左頬に手を添えて、右頬にキスを1つ落とした。

「あ………」

そんな光景をただでさえ赤い顔をしていた国木田は真っ赤になりながら。
谷崎兄妹も頬を染めながら見ていたのに対し、

「如何したの?」

何かに気づいた敦と、その間の抜けた声に反応した鏡花。

「いや、太宰さんの右手……」

「右手?」

鏡花がキョトンとしながら太宰の右手を注目する。


ーーー薬指にあるのは紬と同じ指輪だ。


中也の隣に居た山吹も、その指輪を確認すると
安堵し、そして笑ったのだった。
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