第19章 策動
あれだけ表情を強張らせていた国木田だったが
大量の酒が入って谷崎に肩を借りて歩く始末。
勿論、太宰兄妹が故意に飲ませたのだが。
今まで食べたことのないくらい美味しい食事に自然と顔が綻び、誰もが幸せな顔をしていた。
そう。すっかり忘れていたのだ。
「お会計38万6000円になります」
此処が高級料理店であること。
聞いたことのない値段に太宰兄妹以外がピシッと固まった。
それもそうだ。
国木田以外全員、アルコォルが入っていない為に正常な判断が出来るのだ。
「さんっ…!?」
敦が驚きのあまりに言葉を発する。
が、支払いをするのだろう紬は何でも無いかのように何かを店員に差し出した。
それは一枚の真っ黒なカード。
「ブラックカード……!?」
今度は谷崎が驚く。
「ブラックカード……?何ですか?それ……」
敦の言葉に反応したのは太宰だった。
「数千万の家でも一括で買えちゃう魔法のカードさ」
「いっ!?」
ぎょっとする探偵社員達をよそに紬はニコニコしていた。
ところが。
「あの失礼ですが……此方、貴方様のカードでお間違いないでしょうか?」
店員が少し青くなりながら問う。
「いいえ、違いますよ」
しかし、その質問に紬はニコッと笑って答えた。
「大変申し訳ありませんがご本人様以外のご使用は………」
「大丈夫ですよ。もう間もなくその持ち主がーーー」
来ますから、と続けられた声に重なるように入り口の扉が開いた。
「「「!?」」」
現れた人物を見て驚く探偵社員。
現れた方も一瞬目を見開いて目的の人物の周りに居る人間を見渡したが、直ぐに視線を目的の………紬に移した。
「勤務中にこんな所で何してんだァ?手前は」
「食事に決まってるでしょ。ほら、中也。店員さんが待ってるよ」
「はぁ?」
眉間に皺を寄せて不機嫌そうに云う。
それとは反対に、本当のカードの持ち主が現れて店員は安堵の息を吐いて中也にスイッと紙とペンを渡した。
「さんっ!?はぁ!?手前、人のカードで何しやがった!?」
「だから食事だってば。今云ったのに忘れちゃうなんてその身長に違わず脳みそも小さいの?」
「巫山戯ンな!ただの食事でンな金額いくわけッ………!」
中也の視界に入るのはニコニコしている太宰兄妹だ。