第19章 策動
「失礼します」
中原中也は一礼して退室した。
そして、退室したばかりの部屋の前で手に持っていた紙をパラパラと捲った。
「お疲れ様でした」
そんな中也の傍に寄ってきたのは彼の秘書ーーー山吹だった。
「急ぎの案件ですか?」
「ああ」
頭をガリガリ掻きながら溜め息をつく。
中也が今いるのは首領室の前で、書類を片している時に急に呼び出されたのだ。
時刻は10時過ぎーーー。
「あの……溜め息を着くほど複雑な案件なんですか?」
「いや…そうでもねぇが書類もまだ片付いてねぇし、紬も未だ帰らねぇから如何するかって思っただけだ」
「太宰幹部、ですか」
聞きたくなかった名前が中也の口から出てきたため、僅かに顔をしかめる。
「凄ェ顔してンぞ」
「えっ……!済みません!」
「そんなに嫌いか?彼奴の事」
「いえっ……!決してその様なことはっ」
「だよなァ。彼奴に憧れてンだもんな」
ククッと笑ってポン、と頭を撫でてやる中也。
「まあ、彼奴の前で感情を顔に出すのは止めておけよ。直ぐに見抜かれて碌な目に合わねェぞ」
「……肝に命じておきます」
既に手遅れのような。
なんて心で思いつつ山吹は苦笑しながら返事をした。
「にしても今日中か……。」
「殲滅ですか?」
「いや……まあ派手に壊すように指示は受けたが殲滅とまでは云われてねぇよ」
紙を畳んで懐にしまうと中也は執務室に向かって歩き出した。
「それならば人数を集めなければいけませんね」
「いや必要無ェよ」
「え?」
「『双黒』として命を受けたからな」
「!」
山吹の足が思わず止まる。
そんな………2人で…。
「何処ほっつき歩いてるか知らねぇが迎えに行ってそのまま出てくる」
執務室に着くなり外套と愛用の帽子を被って素早く身支度を済ませる中也。
「待って下さい!私もお迎えにご一緒してもよろしいでしょうか!?」
「は?………俺の話し聞いてたか?」
「聞いてました!でも、太宰幹部は車で外出中ですよね!?太宰幹部と合流したら其方の車で戻りますからっ………!」
一緒に、と。
俯きながら尻すぼみしていく声を聞いて、中也は頭を撫でた。
「息抜きにドライブといくか」
「!」
優しく笑った中也の顔に一瞬、見蕩れて山吹は頷いた。