第19章 策動
通行人が多くてどの人物を指しているか判らない。
「………何て格好してるの」
「え」
ボソッと呟かれた太宰の声に唯一反応できた敦だけがどの人間が目的の人物か判った。
此方に向かってきていた人間の中に、明らかに普段着ではない女性。しかも2人の男性に挟まれている。
向こうも此方に気付いたのか。
少し歩くスピードが速まった気がした。
そして、そのまま太宰の元へ近付いてきた。
「待たせてしまったかな?」
「そんなことより何なの、その格好」
近付いて判った。かなりの美人だ。
敦や谷崎、女性陣も感嘆の声を上げ、国木田に至っては固まっている。
そんな女性の腰にスルッと手を回して不機嫌な声で問う太宰。
美形同士、絵になる。
「あ…………もしかして……紬さん……?」
敦が心当たりある女性の名をポツリと云うと女性は敦の方を向いた。
「久し振りだね敦君」
中りだ。
名前を呼ばれた紬はニコリと笑って返事をした。
「私の質問に答えないで敦君と会話だなんて覚悟できてるんだよねえ?」
「ハイハイ。後でね」
ふふっと笑って云う紬。
太宰は不満そうではあるが、取り敢えず紬から少し離れる。
相変わらず腰に手を回したままだが。
「あの………太宰さん…………」
この状況で一番気まずそうにしていた男達の片方が恐る恐る口を開いた。
「「何だい?」」
「あっ………えっと…………」
太宰が2人とも反応してしまい、焦りしかない部下。
その様子をクスクスと同じ顔で笑う。
「面白い反応。紬の部下?」
「いや、中也の」
「ふーん。蛞蝓には勿体無いね」
「でも呉れないって。残念だよ」
態とらしく肩をすぼめる。
「まあ、立ち話もなんだし中に入ろう。ついてき給え」
紬はそういうと店の方に向いて歩き出した。
勿論、ピッタリと太宰も引っ付いている。
「えっと……」
「取り敢えず入ります……?」
「そうだね」
初めとは違う理由で固まったままの国木田を押しながら敦と谷崎が。それに続くようにナオミと鏡花も入っていく。
「俺達は如何したら」
「中也さんに…」
残された2人が考えていると
「君達も早くー」
「「……。」」
紬に声を掛けられ部下達も続いた。