第19章 策動
「おい……本当に太宰が奢るんだろうな……」
時は夜。
日は長くなったとはいえ午後8時近い今、空は真っ暗に染まっている。
その空と同じくらいに国木田の気持ちも暗かった。
『久し振りに夕餉を如何だい?あ、鏡花ちゃんと敦君も良い処に!』
そう誘われたのは帰宅しようと社を出て直ぐの事。
『だ~ざ~い~貴~様~!!今までほっつき回っていたかと思えば奢らせる算段か!?』
『嫌だな~私が誘ったんだし君達には一銭も払わせたりしないよー』
『うわー良いんですか!?久し振りの外食だって鏡花ちゃん!お呼ばれしよう?』
『うん………楽しみ』
『絶対だな?俺は絶対に支払わないからな?』
『大丈夫だってー心配性だな~国木田君は。あ、谷崎君にナオミちゃん!』
『あ、お疲れ様です』
『皆様揃って何処か行かれるのですか?』
『そそ。皆で食事に。良かったら谷崎君達も如何?御馳走するよー』
『えっ!?いいンですか!?』
『わー!愉しそうですわ!是非!』
『うふふっ。それじゃあ行くよー』
そんなやり取りを行った10分前。
国木田は後悔していた。
「んー?如何したんだい?国木田君。何か浮かない顔だけど」
「太宰」
「なーに?」
「…………本当に此処で食事をする心算か?」
「勿論~」
ニコッと笑って云う太宰。本気のようだ。
「何か立派なお店ですねえー」
軽い感じで敦が云うと、ぎぎぎ……と壊れた人形のように国木田が首だけを敦に向ける。
「此処は創業100年以上の歴史を持つ高級和食の店………の中でも指折りの………老舗中の老舗だ」
「「「「へ?」」」」
国木田の顔色が悪い理由を十分に理解するまでに少しの時間を要する一同。
そしてーーー
「いやいやいや!!太宰さん!?僕達、そんなにお金持ってないですよ!?」
「そうです!大衆食堂にしましョうよ!?」
太宰の奢り………なんて本当に信用ならない!と。
その勢いで敦と谷崎が説得を始めた。
「本当に心配要らないって。でももう1人来るからもう一寸待ってーーーーーあ、来たかな」
「「「「!」」」」
もう1人来ることすら初耳ですが!
と、驚き続きの一同は、取り敢えず「もう1人」を確かめるべく太宰の視線の先を追った。