第19章 策動
それから暫く交渉が続く。
この製薬会社ではジェネリック医薬品だけでなく、サプリメント製作に力も入れていた。
「安全なモノを安価で手に入りやすい、をコンセプトに独自ブランドを製作し、展開していこうと考えております。先ずは通販ではなく提携している薬局、それからコンビニ、等と段階を踏んで気軽に手に取れる場所に置けるように。ある程度の消費が定着してからネット利用を検討する次第です。最近では『ネット割引』『定期購入割引』もよく見るので、利用しない手は無いでしょう。しかし、先ず大事なのは顧客の固定化。商品の安全性には自信がありますから近い内にイベントを設け、商品の宣伝を行う予定です」
計画の見通しを聞いて男が頷く。
「サプリメントとは補助食品と称されるだけあり、矢張り品質が問われます。材料にはこだわる必要があるけれど安価で抑えなければというコスト面が現在、我が社の課題としているところです」
想像していた以上にプレゼンの上手い紬に男は感心する。
そして、強く思った。
『欲しい』、と。
少し会話を続けたところで来客がある。
予め用意されていたのだろう。入室してきたホテルのボーイによってテーブルにチーズや生ハムといったオードブルとワインが次々と並べられる。
ホテルのボーイが退室していったのを確認して紬がテーブルに視線を移した。
「商談の場でアルコォルですか」
「おや?お気に召さなかったかな?先程のパーティと同じだけど」
「同じ、ですか」
含みのある云い方をする紬にピクッと男の眉が動く。
「何が云いたいのかな?」
注がれて運ばれたワインに口を付けながら男が問うた。
「いえ。貴方に関して、少々耳にしたものですから」
「何を聞いたかは知らないけど噂は所詮、噂だ。この界隈で商売をするということは激しい戦争を行っているのと同じ。だから足を引っ張る為に不利になる噂を流すライバル企業もいるんだよ」
「確かに。一理ありますね」
「因みになんて聞いたんだい?」
グラスを置いて笑顔で紬に問う。
「『虎の威を借る狐』だと」
「っ!?」
ニコッと笑って云った紬にカッとなったのだろう。
真っ赤な顔をして男は勢いよく立ち上がり、紬に近付いてきた。