第19章 策動
「宜しいのですか?」
「勿論。とびきりの案があるんだよ『君次第では』」
「それは楽しみですわ」
うふふ、と笑いながらパーティ後に会うことをあっさりと了承した紬の言葉を聞いて男な口許が一瞬、釣り上がった。
「このホテルのスイートを取ってあるから其処で行おう!」
そう云い置いて、男は他の来賓の元へ去っていった。
壁際にいた部下達が再び紬に近付いてくる。
「大丈夫でしょうか?」
「簡単に釣れ過ぎて逆に心配になるくらいだよ」
「いえ、そうではなくて」
「?」
部下たちは2人ともサングラスをしている。
故に、その表情をハッキリと窺い知ることは出来ないが、眉が所謂「ハの字」に変形していた。
その様に紬が首を傾げる。
「『君次第では』って云ってたじゃないですか。この間みたいに押し倒されたりしないか心配です」
「ああ、そのこと」
紬が首を元の位置に戻す。
「確実に寝台に連れ込む気だろうね、彼」
「「!!」」
「きっと今、私に出す飲み物に一服盛る算段をしているのだよ、あれ」
「「!?」」
紬の視線を部下達が追う。
確かに、男がパーティの参加者とは思えない……自分達と似たような格好をした男に耳打ちで話し掛けている最中だった。
部下達はバッと紬の方を向き直る。
「心配しなくても大丈夫だって」
「「しかしっ……!」」
「大体、私に『絶対』触れるのなんてこの世にたった一人だけなのに大袈裟過ぎるのだよねぇ」
「「……え?」」
「あ、そう云えばこの間のやり取りを中也に報告したでしょ。お陰であの後、一番怒らせたら拙い人間にバレてしまって散々な目にあったんだから!」
「「………。」」
話が逸れた気がする。
部下達は言葉を発さずに紬を見詰める。
暫く紬の小言を黙って聞いて。
「あの男が少しでも私に触れた場合、懐に手を入れて。入れるだけでいいから」
パーティ終了の合図と同時に紬が部下達に告げた。
その指示に了解の意を示す為に、2人は大きく1つ頷いて見せた。