第19章 策動
パーティ会場に着いてそう時間が経たない内に紬は何人もの男性から声を掛けられるほど注目されていた。
「凄ぇな太宰さん」
「ああ。あ、また別の男が挨拶に来たぜ」
紬の見える壁際に立ちながら部下達は話をしていた。
見たこともない完璧な笑顔を絶やさずに会話を行う紬。
その会話のキリの良いタイミングを見計らって次の男が話し掛けるーーー。
この出来上がった構図を部下達は2時間近く見続ける事になった。
「あー。疲れた」
「「お疲れ様でした」」
紬がはぁ、と息を吐きながら壁際に寄ってきたため一礼する。
部下の一人が紬のために飲み物をとって来る。
それを受け取ると紬はそれを一気に飲み干した。
「うーん。甘いなぁ」
「済みません。カクテルの方が好みかと思いまして」
「洋酒も好きだけど矢張りーーー」
そう話している時、一人の男が紬に近付いてきた。
「貴女が××コーポレーションの?」
30代後半くらいの齢の男は、このパーティの主催者だった。
誰にも気づかれないほどの一瞬、紬の目が細まる。
「ええ。太宰と申します」
直ぐにニコッと微笑み返事をした。
それが合図だったかのように部下達が再び壁際に下がる。
「ああ、良かった。本日は態々お越し下さり有難うございます」
「此方こそお招き頂きまして感謝致します。こうした機会でなければなかなかお会いできない方々ともお話することが出来ました」
「それは良かった。商談に繋がりそうで?」
「ええ。お陰様で」
誰もが紬のような美女が来るとは思っていなかったのだろう。
こぞって紬に有利な商談で気を引こうとしているのが明らかだった。
「私も××コーポレーションとは今後とも友好な関係を続けたいからね。どうだい?もうすぐパーティはお開きだ。その後で私とも、ひとつ取引といかないかな?」
男の提案に紬がパアッと明るい笑顔を見せた。
その表情に男が目を開いて、ゴクリと唾を飲み込む。
その行為は壁際にいた部下たちからもハッキリと見えるほどであった。