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【文スト】対黒・陰

第19章 策動


扉が閉まるまでみとどけてから中也は再び万年筆を動かし始めた。
しかし、他は未だにポカンとしている。

「何時まで呆けンだよ。いい加減、仕事しろ」

中也の声でハッとし、
その場にいた数名の部下全員が一斉に動き出した。


「……お綺麗でしたね太宰幹部」


中也に珈琲を淹れて持ってきた山吹がポツリと云った声に、中也以外の周りの人間が同時に頷く。

「彼奴は大抵の男なら一発で落とせる。昔から顔だけは良いんだよ。顔『だけ』は」


『だけ』の部分を強調して云った中也の発言に山吹は苦笑したが、他の連中は違うようだ。

「太宰幹部があんなに女性らしさを秘めている知りませんでした!」

「遊びでも良いからって思ってしまうほどお綺麗でしたね!」


等々。
部下達が紬を褒め称える、だけに留まらないような内容を口々にし始めたので中也は溜め息を着いた。

「思う分は構やしねェが、行動に出ンのは止めとけよ」

場を塗り替えるほどの低い声が響いた。
突然だったためビクリと肩を震わせる者も何人か居た。


「紬はアイツを想う人間から常に護られてる。少しでもちょっかいを掛けてみろ。楽に死ねなくなるぜ」


中也の言葉に
山吹以外の部下達の脳に、あることが過った。



『太宰紬を女として見た人間は必ず死ぬ』



真しやかに囁かれているこの話は、ポートマフィアに属する黒尽く目の。云うなれば低階級の人間の間では有名なものだった。


『或る人曰くーーー突然、行方不明になった』

『或る人曰くーーー偶然、抗争で弾除けになった』

『或る人曰くーーー不運にも、敵対組織の捕虜として実験のモルモットになった』


その場に数多くの人間が居合わせて、殆どの者が生存できた状況でも
『紬を想い、行動に出た』連中だけは確実に死んだーーーらしい。

死んだ連中が本当に紬の事を好いていたのか。
それをハッキリと知る人間すら居なかったため、『死んだのは太宰紬を想っていたからではないか?』と逆の発想で立てられた噂と云う説もあった。


ところが如何だろう。

今、眼前の上司は何て云っただろうか。
遠回しに『太宰紬に手を出せば死ぬ』と云わなかったか?

その噂はーーー『真実』と。


男達は黙って手を動かし始めた。
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