第19章 策動
部下達も戻り、再び書類を片付けはじめて暫くして執務室に叩敲の音が響き渡った。
「どうぞ」
中也が入室を許可する。
「「「「「ーーーーっ!?」」」」」
直ぐに入ってきた人物を見て、中也以外の全員が思わず息を飲んだ。
「中也ぁ。私の名刺知らないー?」
「あ?ーーーほらよ」
そんな周りには一切、目もくれずに中也の前までツカツカと歩いていき、面倒臭そうに口を開いた人間は紛れもなく太宰紬だった。
「何で中也が持ってるの?そんなに欲しかったの?私の名刺」
「ンなわけあるか!!手前がこの間預かっとけって云って俺に押し付けたンじゃねーか!!」
「あれ?そうだっけ?」
こてんと首を傾げて云った紬を見ていた中也以外の人間達は思った。
なぜ中也は普段通りに接することが出来るのか、と。
普段、適当に結われている髪はハーフアップされており、丁寧に編み込まれている。
着用している黒のタイトドレスはシンプルなモノであるが、肩から胸にかけてざっくりと開いており、丈が膝上10糎のためか大人の色香を醸し出している。
小さな石が1つだけ付いているネックレスも控え目で良い。
更に、普段はしていない化粧も完璧に施されているため、普段の紬の数倍も女性らしさが増していた。
元より容姿は良いのだ。
性格に難があるだけで。
しかし、殆どの者が見た目だけで性格など見抜ける筈が無いだろうし、紬に至ってはそれを隠すことだって容易だろう。
「姐さんか?」
「そう。ドレスを借りに行ったら遊ばれてしまってね」
「ふーん。まあ、女に見えるじゃねぇか」
「中也の女装には負けるよ」
「手ッ前ェ!!?」
ケラケラと笑う紬は普段通りの紬なのだが、如何しても容姿が違うために誰もが思考が追い付かないが如く見惚れるのであった。
それに気付いてか。
チッ、と。
紬は中也から名刺ケースを右手で受け取った。
「指輪、嵌めていくのかよ」
「外したら後が怖いもの」
「そうかよ」
名刺ケースをパーティバッグに仕舞いながら続ける。
「あ、あと2人貸して」
「あ?……ああ」
先日から紬の手伝いをしていた部下2人を指名した。
中也に云われ、素早く準備した部下達を連れて紬は退室していった。