第19章 策動
自分の執務室に入って直ぐに紬は仕事机に着席して溜め息を着いた。
「やれやれ。少し離席した間にまた増えてる」
目の前に積まれた書類にうんざりしながら云い、視線を中也に戻した。
目の前にいる中也は山吹の手首を握っていた。
山吹はまだ心此処に非ずの状態だった。
無理もない。
自分と一緒にいた小柄な男は、自身よりも2回りほど大きい男を虫を相手にしているが如く容易く『潰した』のだ。
昨日、目撃した射殺よりも衝撃な光景を目の当たりにして動けなくなっていたのだ。
そんな山吹に一瞬だけ冷ややかな視線を送る。
「それで?」
「ん」
その視線に気付きながらも話が進んだため何も云うことなく、ぐしゃぐしゃになっている紙を紬に渡した。
それを受け取って視線を落とす。
普段ならば一枚読むのにそう時間掛からない紬だが、何を思っているのか。
数分間、書類から目を離すことなく黙ったままだった。
5分は経っただろう。
紬が紙を机において息を吐いた。
「此れを私に見せる理由が判らないね」
「だろうな」
漸く口を開いた紬に苦い顔をして中也は答えた。
「真逆とは思うけど『私に』頼む心算じゃあ無いだろうね?」
「……その真逆だ」
「!?」
中也の言葉に、山吹が漸く我に返った。
「中也。抑も、これは君の仕事でもないでしょ?」
「そうだな」
「百歩譲って中也の任務の代わりならば検討くらいはしてあげる」
「……。」
書類をスッと中也の方に戻して、しっと手で払った。
「どうしても嫌ならば、姐さんのところの部隊の人間でも借りたら良いでしょ」
「全員、出払ってるから話が此方に回ってきてンだよ」
「そりゃ残念だね。諦めるしかないんじゃない?」
「!?」
紬は山吹に向かって視線を送った。
ビクッと肩を大きく震わせた後、小刻みに震え出す山吹。
それに気付いて中也は山吹を紬の視界から遮った。