第19章 策動
一昨日と違う点があった。
開けられた牢屋の入り口ーーー。
その牢の外にいるのは
明らかに疲れ果てた見張りだった男と、
見るからに戦闘向きでない細い女。
ただ、それだけ。
一昨日には居た武装した付き人が今日は居ないのだ。
自分の手には枷が嵌められている。
しかしーーーー足には何も、無い。
一昨日、偶然にも仕入れることが出来た情報では
あれほど黒社会最恐と恐れられている『双黒』の相方は、自分なんかとは比べ物にならないくらい小柄な男な上、現在重傷を負っているらしい。
名前と噂しか聞いたことが無かった俺にとって此れほど有益な情報は無い。
となれば、だ。
目の前の女が主として『恐怖』を与えているのではないか。
一瞬で生気を奪われた隣の男を見て仮定が確信に変わる。
男は大人しく牢を出た。
そしてーーー
「っ!!」
ダッ!と駆け出したのだった。
「!?」
「おやおや」
伝令がバッと男を見て懐に手を入れるも、銃は無い。
急な任務だったので仕込む暇が無かったのだ。
しかし、焦る伝令に対して紬はのんびりしていた。
もう1人の男の為に牢屋の入り口を施錠する。
伝令の男が逃走の伝令を発しようとしたが、紬はそれを静止するほどだった。
「何故です!?」
そう云おうとした時だった。
未だそう離れていない位置。
逃走している男の目の前に人影が現れたのだ。
「…………?中原幹部、ですか?」
驚いて直ぐに紬を見ると、紬は何を云うでもなく欠伸していた。
「っ!」
伝令は再び男の方を見た。
その瞬間、
「ぐぎゃあぁあああぁあああ!!!」
つんざくような男の悲鳴と、
身体の潰れる音がこの地下空間に響き渡ったのだった。