第19章 策動
扉の外で待機していた部下2人は何かあったことを悟り、深く訊いてこなかった。
「紬知らねぇか?」
中也の質問に部下その2が直ぐに反応する。
「太宰さんなら壁に繋いだ男が漸く死んだと連絡が入っていたので恐らく地下牢に」
「そうか。手前等は適当に仕事しておけ」
そういった中也に短く返事をして頭を下げる。
『地下牢』と行き先を告げた筈なのに
中也が向かう先は強いて云えば反対方向ーーー首領の元のようだ。
部下2人は顔を見合わせたが、何も云わずに仕事を開始したのだった。
山吹を首領室の外で待たせ、中に入った中也が出てきたのはその5分ほど経ってからのこと。
「失礼します」
と、脱帽して出てきた中也はパタパタと歩み寄ってきた山吹の頭を撫でる。
向けられた顔ーーー優しい笑顔に思わずドキリとした山吹は、その事がバレないように慌てて口を開いた。
「一体、何をされていたのですか?」
此処に赴いた理由に自分が絡んでいることくらいは想像出来ていた山吹。
「大したことじゃねぇよ。ほら、次に行くぞ」
「えっ……あ、はい」
中也は山吹を手招きして歩き出した。
幹部専用の昇降機に乗り込んで釦を押す。
ランプがついているのは『B3』ーーー地下牢だ。
先刻、中也が紬の居場所を訊いていたことを思い出した山吹は今の今まで昂っていた気持ちが、一気に下降するのが判った。
しかしそれが、『一昨日、観た暴虐の行為を行った地下牢へ行くから』なのか『紬に対して苦手意識があるから』なのか『中也から紬に会いに行くから』なのかまでは今の山吹には判らないことであった。
ウィン…という電子音でハッとすると、山吹は先に歩き出した中也の後を慌てて付いていく。
ヒヤリとした空気。
脳裏に浮かぶのは一昨日の惨事ーーー。
あまり思考が働いてないのか、色々なことがありすぎて頭が思考を放棄しているのか。現状ではなく過去の映像ばかり見せている。
前者だったのかもしれないな、と。
ぼんやりとそう思った瞬間に、
「ぐぎゃあぁあああぁあああ!!!」
つんざくような悲鳴と何が潰れるような不快な音で
山吹は本当に現実に戻ってきたのだった。