第19章 策動
2時間後ーーー
「綺麗になってるー」
「あ、お疲れ様です」
執務室に戻ってきた紬は机の上を見てキラキラとした笑顔で感想を述べた。
紬の意図を汲み取り、仕事机だけではなく来客用机の上の書類まできちんと運ばれている事に「流石、中也の部下だなー」と感心する程だ。
それでも、紬の不在の間に積まれた書類は結構な数があった。
立ったままパラパラと書類を確認する紬にその2がお茶を出す。
「有難う」
「済みません。幾つかは終わったのですがその辺りは全く判断できませんでした」
「うふふ。充分だよ」
お茶を啜りながら時計を見る。
「15時に○○商事と商談があるから車の手配してくれる?」
「何時でも出発可能です」
本来、中也の出向く任務だったため部下も把握していたのだ。
「本当に捌けるなあー中也の部下辞めて私のところ来てくれたら良いのに」
「「勿体無いお言葉です」」
恭しく頭を垂れる2人にクスッと笑い、お茶を飲み干した。
「却説と。出発するかな」
紬は2人を伴って車へと向かった。
「そういえば太宰さん」
「んー?」
何かを思い出したように部下が紬に問う。
紬は書類をチェックしているようで顔は上げずに返事した。
「食事、摂れていないのでは」
「あーうん。食事時間の事なんて食事の用意がないなら頭にもなかったや。大丈夫かい?」
「あ、我々は済ませました」
「ならよかった」
「いや、我々の心配ではなくてご自身の心配をして下さい」
「んー」
自分の事になった途端に興味がなくなったのか書類に集中してしまう紬にその1がススッと何かを差し出す。
「矢っ張り中也さんと似た者同士ですね」
「中也と似てるなんて死んでも御免だよ」
ブーブー文句を云いながら受け取ったのはゼリータイプの栄養補給食品だ。
「○○商事は、毎回といっていいほど無理難題を吹っ掛けてきて長引くんです」
じゅるーと音を立てて飲みながら手元の書類に目をやる。
そこには値段、納期、待遇などについて今まで中也が行ってきたものの報告が書かれていた。
「中也は優しいからねえ」
飲み終わったパウチをグシャリと潰して紬は小さく笑って呟いたのだった。